リチウムイオン電池リサイクルにおける新たな進展

Robert Bird , Information Scientist, CAS

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リチウムイオン電池リサイクルにおける新たな進展

リチウムイオン電池のグローバル需要は飛躍的に伸びており、電池の主要部品と材料に対する需要も供給を上回る可能性さえあることから、重大な変曲点の到来が予測されています。

リチウムイオン電池を動力源とする電気自動車のグローバル市場は、2027年までに8,580億ドルに成長すると予測されています。 ところが、世界でリサイクルされているリチウムイオン電池はわずか5%に過ぎないと考えられています。 歴史的にリチウムイオン電池のリサイクルは、変動しやすい原材料の価格や、リサイクル工場の不足、そして規制の不在といった要因などによって制限されてきました。 しかし、リサイクル方法の進歩や高い成長性、そしてレアメタルの量が有限であることなどから、リサイクルはより魅力的なものとなってきており、市場規模も2030年までに130億ドルに達する可能性があると予測されています。

現在のリサイクル技術

現在、電池のリサイクル方法には主に3つの種類があり(図1)、湿式製錬と乾式製錬の組み合わせが主流になっています。 湿式製錬と乾式製錬は、コストが安く、また複雑であることから、研究と特許の発行件数が飛躍的に伸びています(図2)。 湿式製錬では、溶液(主に水溶液)を用いて電池材料から金属を抽出および分離します。 乾式製錬では、熱を使って電池材料に使用されている金属酸化物を金属または金属化合物に変換します。 ダイレクトリサイクルは、正極材を取り出して再利用または再生する方法です。

リチウムイオン電池のリサイクル方法 図1
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リチウムイオン電池のリサイクル方法 図2
図2

ダイレクトリサイクルがなぜ最良なのか

正極材を直接取り外す方法では、リサイクル業者は結晶構造に損傷なく、しかもエネルギー、試薬、設備の固定コストを抑えながら再利用または再生することができるため、理想的です。 しかし、より高い労働コストが必要で、良好な電池リサイクルの条件を満たすための閾値も高くなります。 リチウムイオンのリサイクルの分野を阻害してきた最近までの主な課題は、電池の設計が統一されていないことと、電池を金属の原料に変換するためには湿式も乾式も高度の労力が必要であることでした。 最近の論文では、実用的な正極材を得るための、現行のリサイクルではできなかった方法が見られるようになっています。

ダイレクトリサイクルの新しいアプローチ

最近そういった技術のひとつが、Journal of American Chemical Society誌にZheng Liang、Guangmin Zhou、Hui-Ming Chengらにより発表されました。 ヨウ化リチウム(LiI)と水酸化リチウム(LiOH)を共晶として混合することで、それら塩単体の場合よりも低い温度の200℃以下で溶解します。 その結果、より利用しやすい温度で液体になるのです。

再生材料から製造された電池では容量は完全に回復されない一方、共晶混合物の場合は200℃で3時間、次いで850℃で2時間連続加熱することで回復が得られます。 ところが、この共融混合物にCo2O3とMnO2を添加すると、2段階の工程を経て得られた再生NMC523は、新規に製造された材料と同等の特性と結晶構造を有することがわかったのです。

このアプローチは、リチウムイオン電池の正極を、新規に製造するよりも少ないエネルギーと資源で完全再生する方法をもたらすことになります。 劣化した電池材料をより低いコストで完全に機能するようにできれば、よりコストのかかる他の技術で製造された金属や金属酸化物よりも、はるかに大きいマージンで販売できます。

課題

ただし、Liangらが開発したアプローチに課題がないわけではありません。 この方法では、電池を分解してから組み立て直す必要があるのです。 電池の設計や正極の組成が複雑で統一されていないことも、一般的な電池リサイクルの障害となっています。 乾式製錬ではさまざまな種類の電池を処理できる一方、ダイレクトリサイクルや湿式製錬では、異なる種類の電池を選別し、電池を安全に解体する必要があります。 ダイレクトリサイクルが実用的になるためには、電池の組成と設計を符号化して電池に指定しておくことが必要になります。 一般的な設計の電池であれば分解は比較的簡単になるものの、リチウムイオン電池の応用の幅広さを考えると、それは可能ではないかもしれません。

今後の展望

今後リチウムイオン電池は、主要金属に対する需要が供給を上回る可能性があるため、そのギャップを埋めるにはリサイクルが重要な役割を果たす必要があります。 今後の技術革新を加速させる重要な原動力は、省資源、環境への影響、そしてコストパフォーマンスなどとなるでしょう。

この最近の研究では、商業化可能なリチウムイオン電池再生とダイレクトリサイクルのアプローチを提供するわけではないものの、この実践が技術的に実行可能であることは示しています。 このアプローチは熱水ではなく共晶系を使用するところが、以前のダイレクトリサイクル法とは異なっています。 商業的に実現可能なダイレクトリサイクル技術であれば、リチウムイオン電池の部品供給の安定性を高め、エネルギー貯蔵のための液体燃料の代替品としての持続可能性に貢献し、人間が排出するCO2の削減の重要な手段となって、気候変動を緩和に貢献することでしょう。 リチウムイオン電池のリサイクルに関する新たなトレンドについては、最新レポートをご覧ください。