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CASでは、『Emerging Therapeutics at the Intersection of Biology and Chemistry』というシンポジウムを最近開催しました。 これはACS Fall 2023の期間中、ACS Technical Division of Multidisciplinary Program(MPPG)のもと、サンフランシスコのモスコーニセンターにおいて開催されたイベントで、知識の交換と洞察に満ちた議論など、有意義な場となりました。
このシンポジウムの冒頭では、CASの最高科学責任者ジル・ジョージス博士により、CASの使命についての概説と、CASのデータ解析や卓越した人材に関する紹介が行われました。 そして、広範囲にわたる科学コンテンツ範囲をはじめ、さまざまな関連性、そして独自の技術など、いかにCASが知識共有のためのハブとして確立しているかの説明がありました。 そして、分散されたデータセット間に新たな関連性を見出すことで、CASの専門科学者たちにより洞察が引き出されるプロセスも紹介されました。
進化する免疫腫瘍学の状勢を探る - 新たに出現してきた概念と治療標的に関するデータドリブンな解析
CAS情報科学者のサビーナ・スコット博士により、CAS コンテンツコレクション™に基づいて免疫腫瘍学に関する論文をトレンド分析した結果が発表されました。 近年、免疫治療における研究の関心や論文は増加傾向にあります。しかし、この数多のノイズの中から適切なシグナルを特定するには、どうすればいいのでしょうか。 新しい概念が台頭してきたとき、それを検出するためには、自然言語処理(NLP)技術と人間の知能をうまく組み合わせることで、各論文を評価し、そして取得された幅広い回答セット内の類似コンテンツを検証するという方法が使われます。 その結果、この新しく台頭してきている概念の多くは、免疫腫瘍学バイオマーカー、標的タンパク質の種類、治療薬の種類、生物学的メカニズムといった分野になっていることが分かったのです。
SARS-CoV-2およびCOVID-19ワクチン接種に対する免疫反応と免疫記憶 - 将来のワクチンへの教訓
次に、ラホヤ免疫学研究所のシェーン・クロッティ博士から、COVID-19の免疫とワクチン開発における最新の発見について深く掘り下げたプレゼンテーションがあり、注目を集めました。 博士は、SARS-CoV-2感染やワクチンに対して、急性と記憶T細胞、抗体、記憶B細胞がどのように反応するかに関する研究結果を発表しました。 具体的には、8か月間にわたってCOVID-19症例数百件から得られたSARS-CoV-2に対する循環免疫記憶を、記憶B細胞や抗体、CD4+ T細胞、そしてCD8+ T細胞など複数の区画に分けて分析した結果です。 4種類のCOVID-19ワクチンに対する体液性免疫記憶と細胞性免疫記憶の評価結果も、貴重な収穫でした。 このセッションでは、胚中心という概念が紹介され、そしてそれがワクチン導入時の免疫生成において果たす極めて重要な役割が浮き彫りになるなど、グローバルな課題に対するタイムリーな視点が提供されました。 免疫反応の複雑なメカニズムに光を当てたこの視点は、今回のパンデミックをめぐる世界的な懸念から、参加者からは強い共感が得られました。
抗体薬物複合体 - 標的療法のための新しい薬剤クラス
ヤシッド・ロドリゲス博士が、CASを代表して抗体薬物複合体(ADC)による生物学と化学の融合の可能性について詳しく解説しました。 抗体薬物複合体(ADC)は急速に台頭してきている、高度に標的化された疾患治療のためのバイオ医薬品です。 これは、モノクローナル抗体が安定したリンカーによって小分子薬剤と連結したものです。 ADCは主にがん治療に使用されており、健康な組織を傷つけることなく、特定の抗原を標的としてがん細胞を死滅させます。
研究チームは、CAS コンテンツコレクションのデータを使い、ADCに関する研究の状勢とトレンドや課題などの概観をまとめました。 科学論文を時間や地域、リンカー技術、ペイロードの選択そしてローディング方法などの要因に基づき特定し、そして分析したのです。 ADCの開発パイプラインも、疾患の治療における臨床への応用とともに調査しています。 この分野の現在の知識をこのようにして把握することで、さらに改良と開発を進めて、将来のADC技術を成功に導くことができるようになります。
エクソソーム - それは自然界がもたらした脂質ナノ粒子という、薬物送達と診断の希望の星
CAS情報科学者のアンディ・チェン博士により、治療や診断用途のためのエクソソームという、影響力ある分野に関する洞察が発表されました。 エクソソームは、ほとんどの真核細胞から分泌される細胞外小胞のうち、脂質二重膜に包まれたナノサイズのものを指すサブグループです。 生来の安定性や低免疫原性、生体適合性、そして優れた生体膜浸透能といったその特有の性質により、効率的な薬物送達のための優れた天然ナノキャリアとして機能します。
博士は、CAS コンテンツコレクションのデータをもとに、治療や診断にエクソソームを応用するための研究の現状とトレンドに関する洞察を、時間、地域、組成、カーゴローディング、そして開発パイプライン全体にわたって得ています。 博士は、この研究によってエクソソームの医療応用分野における現時点での知識の理解が深まり、残った課題も解決されて、エクソソームのポテンシャルが引き出されるようになることを望んでいると語っていました。 新しく台頭するこのエクソソームの情勢をさらに理解するには、今後の機会や課題を明らかにするCAS Insights Reportをご覧ください。
抗体オリゴヌクレオチド結合体(AOC) - 筋強直性ジストロフィー治療薬AOC1001の開発
Avidity Biosciences社の化学担当ディレクター、ソン・ラム博士により、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)を標的とする抗体オリゴヌクレオチド結合体(AOC1001)という革新的な新薬候補の紹介がありました。これは、医学的介入の将来の姿を垣間見るようなものと言えます。 博士は、オリゴヌクレオチド薬剤の標的への送達に抗体を使用することで、いかに特異性と安定性が確保されたかを、詳しく説明しました。
米国には4万人以上のDM1患者がいます。しかし、この疾患に対する薬剤は承認されていません。 AOC1001は、siRNA分子を用いて、原因になっている毒性のミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)のmRNAを標的とするよう設計されています。 前臨床試験において、この薬剤には良好な安全性と忍容性があるほか、筋肉を標的として送達を行い、DMPKのmRNAも顕著に減少させ、そして疾患メカニズムにも影響を及ぼしていることが示されています。 現在、AOC 1001は第1相と第2相の開発段階にあります。 ラム博士はまた、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)をそれぞれ標的とした、AOC 1044とAOC 1020という2つの抗体オリゴヌクレオチド結合体も紹介しました。
PEG化脂質ナノ粒子製剤 - 免疫学的安全性そして効率性からの視点
チョンチョン・アンジェラ・ジョウ博士による、PEG化脂質ナノ粒子に関する発表では、薬物送達におけるその利点とともに、さらなる研究が必要な領域も明らかにされました。 博士が特に強調していたのは、ポリエチレングリコール(PEG)が引き起こす免疫反応のしくみを解明することと、それが将来の医薬品開発にもたらす潜在的な影響を理解することの重要性です。 PEG化LNPの免疫原性と全般的な安全性への懸念に関して、博士はCAS コンテンツコレクションのデータ分析に基づいた概要を発表しました。 また、PEG脂質のさまざまな構造パラメータが、LNPの免疫反応や薬物送達の効率という意味での活性に対してどのような影響を与えるかについても、文献レビューに基づいて要約を行いました。 ジョウ博士のプレゼンテーションは、PEG免疫を理解するためにはさらなる研究の取り組みが必要だという、科学界への提言になっています。 PEG化脂質ナノ粒子とその免疫原性に関する懸念については、簡潔にまとめたCASエグゼクティブサマリー、またはより詳細な内容ならBioconjugate Chemistry誌の査読付きジャーナル論文をご覧ください。
今後の展望
このシンポジウムでは有意義な議論が行われ、参加者は専門家とやりとりができたほか、最先端の進展状況を把握することができました。 進化する医療の課題に対応できる革新的な解決策を生み出すためには、生物学と化学を融合させることがいかに重要かが、確認されました。