サイトカインストーム警報 - 免疫と感染症におけるサイトカインの重要な役割
COVID-19に関連した主な死因は、呼吸不全、そしてそれに続いて敗血性ショック、心不全、大量出血そして腎不全となっています。 血清テストでは、炎症性サイトカインストーム反応は、COVID-19の重症度と死亡率とに関連性があることが示されています。 したがって、サイトカインの生物学的機能と、COVID-19患者におけるサイトカインストーム反応の発症機序に関する理解を深めることは、効果的な治療戦略を開発し、そして死亡率を低下させる上での鍵となります。
サイトカインとは
サイトカインは、マクロファージやリンパ球、そしてマスト細胞などの各種免疫細胞をはじめ、内皮細胞(血管とリンパ管の内側を構成する細胞)など他の種類の細胞によって生成される、低分子量の細胞外シグナル伝達タンパク質のグループです。 人体に存在するサイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、リンホカイン、ケモカイン、腫瘍壊死因子(TNF)など複数のクラスがあります。 サイトカインは、細胞の増殖や先天/後天免疫反応、炎症誘発作用と抗炎症作用を含む、各種生物的機能の調節に関わる細胞表面受容体に結合することで人体の免疫調節を行います。
ウイルスに感染すると、サイトカインが免疫系を刺激して病原体を排除し、破壊された細胞を除去し、そして損傷した組織を修復します。 サイトカインはこのような方法で人体が病原菌と戦う手助けをしています。 ただし、サイトカインのバランスが崩れたり過剰に生成されたりすると重大な副作用を引き起こす場合もあります。
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サイトカインストーム疾患の原因
サイトカインストーム症候群(CSS)またはサイトカイン放出症候群(CRS)とは、ウイルス感染で一般的に引き起こされる全身の炎症反応です。 大量の細胞が炎症誘発性のサイトカインを過度に放出するのがその特徴です。 この制御されない炎症プロセスは、敗血性ショック、多臓器損傷、そして臓器不全さえ引き起こすことがあります。
ウイルスがヒトの宿主細胞に侵入すると、子孫ウイルスを複製して放出する場合があります。これはパイロプトーシス(炎症に起因するプログラムされた細胞死)を引き起こすことがあり、これは同時に体内の先天的および適応的免疫システムを活性化させます。 ウイルスの感染は、図1に示すように、内皮細胞と肺胞マクロファージによって、炎症性サイトカインとケモカインの生成を引き起こします。 こういったサイトカインストームは、感染部位に単球やマクロファージ、そしてT細胞を誘引し、それによりさらに炎症性サイトカインが生成されるという悪循環が発生します。 肺におけるT細胞の凝集も重症のCOVID-19患者ではリンパ球の血中レベル低下(リンパ球減少症)を引き起こします。
サイトカインストームに対する身体の反応
免疫細胞の最初の活性化が機能性または機能障害性の免疫反応を引き起こします。 機能性免疫反応の際は、細胞毒性T細胞(CD8+)が感染した細胞を直接攻撃して、中和抗体がウイルスと結合して細胞死(アポトーシス)を開始します。 次に、肺胞マクロファージが中和されたウイルスを除去してアポトーシスした細胞を貪食します。食菌作用というプロセスです。 大部分の場合、このプロセスを通じて感染は解決します。炎症性サイトカインが減退し、そして患者は回復します。
しかし、一部の症例では機能障害性の免疫反応により他の免疫細胞が肺に集まります。 その結果、炎症性サイトカインの過剰生成が起こり、サイトカインストームが発生します。 サイトカインストームが発生すると、血管透過性の上昇により液体と血液細胞が肺胞に移動可能になり、肺水腫、ARDS、そして場合によっては呼吸不全を引き起こします。 こういったサイトカインの臨床症状により、敗血症や播種性血管内凝固症候群といった全身性炎症をはじめ、組織の損傷、そして最終的には多臓器不全を起こす場合があります。
リンパ球減少とサイトカイン上昇は、ウイルス力価および疾病重症度との間で正の相関関係が見られます。したがって、そういった血清の測定により、医師はサイトカインストーム症候群の影響を受けやすい患者を効果的に特定し、時宜を得た医療介入を行えるようになる可能性があります。 ただし、重症COVID-19における宿主免疫反応のサイトカインの役割と関連する病態生理学的機序については、更なる研究で完全に定義付ける必要があります。
サイトカインストームを切り抜けるための治療戦略
現在のところ、重症COVID-19の症例におけるサイトカインストーム症候群発症の管理に対する承認薬はありません。 炎症の抑制によく使用されるものとしてコルチコステロイドがあるものの、このような薬は肺損傷を悪化させる可能性があるため、COVID-19患者に対しては慎重になる必要があります。現在は、IL-6を介した経路を標的にしたものなど、いくつかのサイトカインとその受容体を標的とした代替の免疫抑制剤戦略が研究中になっています。
SARS-CoV-2感染は免疫細胞を活性化してIL-6とその他の炎症性サイトカインを放出します。 図2で示すように、IL-6は可溶性のIL-6受容体(sIL-6R)と結合し、内皮細胞の表面上で別のタンパク質gp130二量体との複合体を形成します。 これが内皮細胞からのサイトカインの放出を起こし、それがさらに感染部位に免疫細胞を誘因し、より多くのサイトカインを生成してサイトカインストームを引き起こします。 IL-6受容体拮抗薬は、IL-6受容体と結合してIL-6との相互作用とそれに続く生物学的事象も遮断します。
COVID-19の患者では過剰なIL-6がサイトカインストームを引き起こすことがあるものの、IL-6は肺の修復と再構築を支える重要な役割も担っています。 つまり、患者の予後に影響を与える重大な要因となっている可能性があるわけです。
サイトカインストームの臨床試験で得られた曖昧な結果
一部のCAR-T細胞治療と関連しているサイトカインストーム症候群治療のために承認されている抗IL-6受容体抗体、トシリズマブの臨床試験が、中国のCOVID-19の患者を対象に始まっています。 トシリズマブの治療を受けた21名の重症患者の初期結果は有望でした。 投与した全患者について初日で体温が正常に戻りました。 75%の患者は酸素吸入の必要性が減り、全患者が最終的に退院しました。トシリズマブは今度は米国でも臨床試験が実施され、死亡率での改善は見られなかったものの、入院期間の短縮への関連性は認められました。別の抗IL-6R抗体のサリルマブも臨床試験の結果、サイトカインストーム症候群の治療には顕著な有効性は認められませんでした。
これらの結果は期待外れであった一方、サイトカインは重要な宿主防御システムを構成していて免疫反応を調節していること、また逆にCOVID-19の重症例の悪化や場合によっては死亡にさえ結びつくものであるということには、変わりはありません。 したがって、サイトカインストームを効果的に抑制する治療法を開発することは、COVID-19の死亡率を下げるために必要な重要研究対象であり、また他の炎症反応におけるサイトカインの役割について理解を深められることにもつながる可能性があります。
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