科学的事実のフィクション - 半導体は本当にリサイクルできるのか

CAS Science Team

a close up of a computer chip

私たちの社会が、そして私たちが日々依存している技術が機能するためには、半導体は不可欠です。 ただ、よりサステナブルな将来に向けてエレクトロニクス産業が動いている中、半導体のライフサイクルと、いかにしてそこに循環性をもたらすことができるかということについて、消費者もそして企業も同様に考えるようになってきています。

混合プラスチックですらリサイクル方法が複雑であることを考えれば、半導体をリサイクルするための技術を設計することがどれほど途方もなく大変か、理解できるでしょう。 半導体は、プラスチックから金属合金までさまざまな素材の混合でできており、中には有害物質も含まれています。そこで、半導体のリサイクルにはそれらの部分ごとに異なった方法が必要であり、そこで完全な循環性を実現するには、複数のリサイクルの流れが入り組んだ、複雑なインフラが必要となります。 では、このとてつもなく巨大な課題にどう取り組んだらよいのでしょうか。 またこの業界で、どのような成長とイノベーションの機会が生まれ始めているのでしょうか。

半導体を持った手の拡大画像

リサイクルを念頭に置いた設計

半導体の製品寿命が尽きたとき、それをリサイクルしやすくするためにまず重要なのは、設計と製造の段階における先見性です。 これは、半導体を開発・製造する研究者の責任であり、製品ライフサイクルとリサイクルの可能性を念頭に置いたうえで行う必要があります。 メーカーは、新しい素材を使うことから有害な化学薬品を減らすことにいたるまで、工夫すればより簡単にしかも安く安全にリサイクルできる半導体を作り出し、成功するサステナビリティへと業界を導くことができるはずです。

すでに研究者は、サステナブルまたは無害な代替品を半導体コンポーネントに導入することにより、将来的に半導体をリサイクルできるような設計をしてきています。例えば、キトサンベースのフォトレジストや、無害な水性の現像液などが挙げられます。 よりグリーンなこういった選択肢は、従来品と競うほどになってはいないものの、将来の新規特許や設計において、有望なチャンスを提供しています。

回路基板を加工する機械

半導体リサイクルのためのインフラ整備

研究者は、設計をするにあたり、半導体のライフサイクルの終了を念頭に置いた設計をするだけでなく、今後はライフサイクルの終了自体も設計する必要があります。 半導体のリサイクルはまだ慣行として確立していないことから、これから創造性や革新が登場し、それが標準となる余地は大きく残されています。 欧州半導体法など世界の各種規制によって半導体のサステナビリティの実施とリサイクルの奨励が進められている中、産業界は、これらの規制要件を満たすために必要なインフラを早急に構築する必要があります。

ここで、重要となるアプローチが2つあります。 第一に、半導体の抽出とリサイクルのための、新しいそしてサステナブルな技術の開発と慣行を創り出す必要があります。 現在のプロセスでは多くの場合、エネルギー集約的であり、汚染を引き起こすほか、搾取的な労働慣行と結びついているためです

第二に、新しいリサイクル技術の普及を促進させるためには、使用済み半導体を回収し、リサイクルできるような場所に運ぶインフラを整備する必要があります。 半導体メーカーにとっては、これは自社製品に循環性をもたらすチャンスになります。古くなった半導体を買い戻したり回収したりすることで材料を回収し、そして新しい半導体に活用することができるようになるのです。

緑色のコンピューター・チップの束

現時点、企業はどんな取り組みをしているのか

現在では、この部門の企業は可能な限り半導体製造にサステナブルな手法を導入する努力をしています。 サムスン社のリサイクル半導体トレイからはじまり、2025年までに温室効果ガス排出量を70%削減するというインフィニオン社の計画にいたるまで、業界大手ではグリーン革命をもたらし、半導体のサステナビリティを向上させる厳しい目標を掲げています。

半導体のリサイクルは、消費者の間でこそまだ後回しになってはいるものの、業界の研究では最先端を走っています。 半導体メーカーは、環境意識の高い消費者にアピールし、またグローバル規模で強化が続く規制に遵守するためには、リサイクルのイノベーションが早急に必要です。

手、そしてその隣に小さなチップ

半導体の循環性は実現間近なのか

半導体がリサイクルされる未来という話は、遠い先の事のように感じるかもしれません。しかし、リサイクル技術とエレクトロニクス設計における近年の進歩の速度を考えれば、半導体リサイクルのイノベーションも時を移さず実現するはずです。 環境に配慮した製品に対する消費者の需要と、エレクトロニクスのサステナビリティに関するグローバル規模での規制により、研究を推進する勢いは増すでしょう。 メーカーは、この将来を見据えたうえで半導体リサイクルの研究に投資を行わないと、取り残されてしまう恐れがあります。 その他の関連するインサイト、例えばリチウムイオン電池のリサイクルにおける新たなブレークスルーや、なぜ光触媒がクリーンな水素をもたらすのか、そしてナノカーボンチューブの新たな可能性などの記事も、併せてお読みください。