新型のSARS-CoV-2ウイルスによる疾患COVID-19は、世界中で数百万人に感染し、死亡例は数万人に上っています。COVID-19の治療薬としてレムデシビルとファビピラビルが条件付きで認可されていますが、日々症例数が増加を続ける現在、COVID-19が患者に及ぼす症状と長期的な後遺症を軽減するためには追加のCOVID-19治療薬の登場が切望されています。
バイオアッセイデータにより有望な候補薬が明らかに
他のCOVID-19治療薬発見のために進められている継続的努力を支援するため、CASの科学者チームは、公開済みの科学的情報を解析し、そしてCOVID-19に関与するタンパク質とそれに対応する候補薬に注目した包括的な報告書を作成しました。 この報告書は最近ACS Pharmacology & Translational Scienceで公開されました。
COVID-19の標的タンパク質と関連候補薬の包括的なリスト、および関連バイオアッセイデータについては、CASのオープンアクセスの記事全文をご覧ください。
SARS-CoV-2の感染に不可欠なタンパク質を標的とする数多くの物質が特定され、関連する公開済みのバイオアッセイデータが解析されました。 図1は、SARS-CoV-2と関連ウイルスの感染に関わる個別のタンパク質に対する物質数を示したものです。 SARS-CoV-2と関連ウイルス間でこれらのタンパク質が示した活性と類似性から、これらの物質はCOVID-19の治療薬開発に向けて更なる調査が必要なことがわかります。
タンパク質と薬の重要な関連性
どんな疾患でも効果的な薬の開発には、一般にタンパク質と薬の相互作用について詳細に理解することが求められます。そこではまず、創薬標的とも呼ばれる標的タンパク質、つまり疾患の進行に大きな役割を担うタンパク質が重要になってきます。 標的タンパク質の特定と検証は、創薬プロセスの第一歩で、これは一般に疾患の進行メカニズムの基礎研究から得られます。そしてそれに対して、今度は候補薬が重要です。 特定の標的タンパク質に対する候補薬の薬理学的特性は、多様な濃度における候補薬の生物学的影響を評価するバイオアッセイにより測定可能です。 一般的にバイオアッセイには、候補薬と標的タンパク質への結合、タンパク質活性の阻害レベル、そしてそういった阻害による生理学的反応の測定が含まれます。
COVID-19に関わる主なタンパク質と候補薬
COVID-19の出現以来、研究者は既にSARS-CoV-2感染プロセスに関わるウイルスタンパク質とヒトタンパク質を数多く特定してきました。 これらはすべて、創薬標的となる可能性がありますが、特に有望な8つをここでは取り上げました。 これらには5種類のウイルスタンパク質(スパイク(S)タンパク質、3CLpro、PLpro、ヘリカーゼおよびRNAポリメラーゼ(RdRp))および3種類のヒトタンパク質((ACE2、TMPRSS2およびフリン)があり、宿主細胞へのウイルス侵入の媒介あるいは宿主細胞内のウイルス複製サイクルで役割を担っています。 これらのタンパク質は図2で説明されており、その感染プロセスにおける役割は下表で解説しています。 また、表にはこれらのタンパク質の阻害し、COVID-19治療薬の可能性を検討されている化合物の例も停止しています。
主なタンパク質 |
ウイルス感染におけるタンパク質の役割 |
候補薬 |
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Sタンパク質 |
ウイルスと宿主細胞の基質融合を可能にする、宿主細胞のヒトACE2受容体に結合するウイルス表面のタンパク質 |
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ACE2受容体 |
Sタンパク質のヒト細胞表面受容体 |
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TMPRSS2 |
ウイルス細胞膜融合を促進するSタンパク質を分割するヒト酵素 |
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3CLpro |
ウイルスのポリタンパク質を分割して個別のタンパク質を放出させるウイルス酵素 |
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PLpro |
ウイルスのポリタンパク質を分割して個別のタンパク質を放出させるウイルス酵素 |
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ヘリカーゼ |
ウイルスRNAを巻き戻すウイルスタンパク質 |
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RdRp |
ウイルスRNAの複製の媒介するウイルスタンパク質 |
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フリン |
ウイルス細胞膜融合を促進するSタンパク質を分割するヒトタンパク質 |
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