mRNAブースター接種の新規推奨事項の発表に伴い、多くの人が自分や家族がCOVID-19ワクチンのブースターを接種すべきなのか、科学的にはどうなのかと質問をするようになってきています。 本ブログ記事では、ブースター接種の基礎を説明し、現在の専門家の推奨事項を確認し、そして公開された最近の研究内容を考察します。
COVID-19ワクチンのブースター接種とは
COVID-19ワクチンのブースター接種は、ワクチン接種完了後(ファイザー社・ビオンテック社またはモデルナ社のmRNAワクチンでは2回の接種、そしてジョンソン・エンド・ジョンソン社のウイルスベクターワクチンでは1回の接種後、典型的な免疫応答を示している状態)に行う、追加のワクチン接種です。 ブースターワクチンは、その名前が示すように、最初のワクチンの防御効果を高めるためのものです。 個人の免疫系を刺激して、追加の抗体とメモリーB細胞およびT細胞を生成します。
ブースターワクチンというと、多くの人が聞いたことがあるのは、成人用三種混合のTdap(百日せきジフテリア破傷風混合)でしょう。 米国疾病対策センター(CDC)は、成人のブースター接種は10年に1回を推奨していますが、特別な状況下でもブースターの使用が推奨されています。 例えば、百日咳に脆弱な新生児や乳児を保護するために、乳児の親そして介護者はTdapのブースター接種を受けることが奨励されています。 けがで破傷風菌への曝露の可能性がある場合も、破傷風菌感染を引き起こす細菌毒素に対する免疫系を「ブースト」させるために、Tdapブースターが推奨されています。
COVID-19ワクチンのブースター接種は、最初のワクチンによって提供された体液性免疫と細胞性免疫の両方を強化することで、感染した際に免疫系がより素早くSARS-CoV-2ウイルスに反応するようにするものです。
COVID-19ワクチンのブースター接種が推奨される理由
特定セグメントでは特にそうですが、免疫不全者への追加接種やハイリスク者へのブースター接種は有益であるという明確なエビデンスがあります。 以下のデータは、変異株の出現や免疫力の低下、そして高いウイルス曝露量に伴い、COVID-19ワクチンの有効性が低下していることを示しています。 2021年の夏になると、ほとんどの地域で感染力の強いデルタ変異株が優勢な株となり、そしてその結果症例数が増加したため、ワクチンの有効性に対する印象が変わってしまいました。 ここでもうひとつの注意すべき側面は、米国では2021年夏の前またはそれ以前に、公共の場でのユニバーサルマスキングなど、多くのCOVID-19対策の公衆衛生条例が終了してしまったことです。
- CDCの研究によると、介護施設におけるmRNAワクチンの予防効果は、2021年3月の74.7%から2021年7月には53.1%に低下しています。
- イスラエルの研究では、先にワクチン接種を受けた人の方が、後から受けた人と比べて感染のリスクは有意に高くなっていることが示されています。 2021年1月にワクチン接種を受けた人は、2021年4月にワクチン接種を受けた人と比較して、ブレイクスルー感染のリスクが2.26倍増加しました。 米国と同様、 イスラエルでも年齢と健康状態に基づき、最も脆弱な人に最初にワクチン接種をしました。 従って、最初に接種したのはCOVID-19の感染リスクが最も高い人たちでした。 イスラエルの12歳以上の人口の78%が、ファイザー社・ビオンテック社BNT162b2ワクチンの接種を受けています。
- ニューヨークの研究でも、デルタ株が支配的になるにつれて、感染に対するワクチンの有効性は、ニューヨークの全成人で2021年5月から7月にかけて91.7%から79.8%に低下したことが発見されてわかっています。
- 英国の研究では、英国のZOE COVID研究で収集したデータを分析しました。 その結果、ファイザー社・ビオンテック社のワクチンのデルタ変異株に対する有効性は、接種完了1か月後の88%から5~6か月後には74%に低下したことが明らかになっています。 オックスフォード大学・アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンでは、有効性は接種完了1か月後の77%から4~5か月後には67%に低下しています。
- University of California San Diego Health(UCSDH)の研究では、2021年6月から7月にかけて医療従事者でワクチンの有効性が急激に低下したことが確認されています。 ワクチンの有効性は3月から6月にかけては90%を超えていましたが、7月には65.5%に低下しました。 UCSDHにおいて7月末までには症例の95%がデルタ変異株で占められていました。
米国のワクチンメーカーによるブースターワクチンの接種に関する推奨事項
ワクチン | 推奨事項 |
ファイザー社・ビオンテック社BNT162b2 | 接種完了から6~12か月の範囲でブースター接種を実施 |
モデルナ社mRNA-1273 | 接種完了から6か月後にブースター接種を実施 |
ジョンソン・エンド・ジョンソン社COVID-19ワクチン | 接種完了から8か月後にブースター接種を実施 |
現在、ファイザー社・ビオンテック社およびジョンソン・エンド・ジョンソン社(対象年齢18~64歳)は現在のワクチンの標準用量を推奨していますが、モデルナ社は標準の100 µgに対して50 µgの低用量を推奨しています。 ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、65歳以上の人には、より低用量のブースター接種を推奨しています。
COVID-19ワクチンのブースター接種に関するCDCとFDAの見解
特に免疫不全で免疫応答が低下しておりCOVID-19による重病や入院、死亡に対して脆弱な集団には、追加接種の必要性についての強いエビデンスがあります。 ハイリスク集団に対するブースター接種は専門家はその価値を認めている一方、医療関係者等のエッセンシャルワーカーと一般人口に対する推奨には政府機関によって相違があります。
機関 | ハイリスク集団* | エッセンシャルワーカー | 一般人口 |
CDC | 推奨 | 推奨 | 非推奨 |
HHS | 推奨 | 推奨 | 推奨 |
FDA | 推奨 | 推奨 | 非推奨 |
*免疫不全者および65歳以上の人
8月中旬、米国食品医薬品局(FDA)は、免疫不全者に対して、追加のファイザー社・ビオンテック社(BNT162b2)またはモデルナ社(mRNA-1273)のCOVID-19ワクチンの投与を承認しました。 それから1週間以内に、米国保健社会福祉省(HHS)は、FDAおよび米国疾病予防管理センター(CDC)からの承認と推奨を待った上で、すべての人にCOVID-19ブースターワクチンを推奨すると発表しました。 CDCは現在、ファイザー社・ビオンテック社またはモデルナ社のCOVID-19ワクチンを接種した中等度および重度の免疫不全者に対して、その保護を強化のために3回目のワクチン接種を推奨しています。
しかし、2021年9月17日に開かれた会議の結果、FDA諮問委員会は、現時点の科学的エビデンスは一般人口に対する追加のワクチン接種を裏付けるものではないと結論付けました。 これは現在接種済みのワクチンがCOVID-19による重篤な疾患、入院、死亡を防ぐのに依然として非常に効果的だからのためです。 科学的には、新しい変異株でもワクチンが意図どおりの効果を現わしているという意味で、これはポジティブなものとして捉えられました。 なお、このFDA諮問委員会の勧告は、広範なブースター接種の必要性を裏付ける多くの科学的エビデンスが明らかになった時点で再検討されるということです。
最近では9月22日に、FDAは65歳以上または重度の疾患のリスクが高く、少なくとも6か月前に2回目の接種を受けた人に、ファイザー社・ビオンテック社のCOVID-19ワクチンのブースター接種を公式に推奨しました。 また、医療従事者や第一対応者、そしてその他の特別な危険にさらされる仕事に従事している者もブースター接種を受けるべきと指定しました。 教員などの職業もこの集団に含まれます。
9月23日にCDCの予防接種実施諮問委員会(ACIP)は、65歳以上の人、長期療養施設の居住者および基礎疾患のある18〜64歳の人に対し、ファイザー社・ビオンテック社のCOVID-19ワクチンのブースター接種を推奨することを決定しました。 しかし、医療従事者、第一対応者、教員など、職業上または施設の環境によりCOVID-19感染のリスクが高い18〜64歳の人にブースター接種を行うことには反対を示しています。 より多くのエビデンスが明らかになった際に、同委員会はこの勧告を再検討するとしています。
数時間後、CDCディレクターのロシェル・ワレンスキー医学博士は、ファイザー社・ビオンテック社のCOVID-19ワクチンのブースター接種を公式に推奨しました。 ただしこれは諮問委員会の結果とは異なっているものでした。 国の公衆衛生の利益が最優先であることに言及した上で、FDAの方針に沿って、職業上または施設の環境によりCOVID-19感染リスクの高い18~64歳の人もブースター接種の対象に含めるとしたのです。
ブースター接種のワクチンは、最初に打ったワクチンと同じである必要があるのか
CDCは現在、ファイザー社・ビオンテック社またはモデルナ社のいずれかのCOVID-19ワクチンを接種した人に、3回目の接種でも同じmRNAワクチンを接種することを推奨しています。 ただし、最初の2回の接種で使用されたmRNAワクチンが利用できない場合、または不明な場合、どちらのmRNAワクチンもブースター接種として適切だとしています。
一方、英国、ドイツ、そしてスペインでの研究では、ウイルスベクターワクチンを2回接種した場合よりも複数の種類のワクチンを接種したほうが多くの抗体を産生することが示されているという初期の結果も出ています。 研究では、オックスフォード・アストラゼネカのウイルスベクターワクチンを使って1回目の接種で免疫系を「プライム」した上で、ファイザー・ビオンテックのmRNAワクチンによって2回目で「ブースト」しました。 各ワクチンタイプが免疫系の異なる領域を刺激するため、ウイルスベクターワクチン単独よりも強力な免疫応答を生み出すということです。
国立衛生研究所(NIH)では現在、ワクチンブースターの混合接種の安全性と免疫原性を判断するために、COVID-19ワクチンの混合接種スケジュールを調査する第1/2相臨床試験を実施しています。
CASのCOVID-19関連リソース
ブースターは、個人が症候性感染を回避するのに役立つものではありますが、それ自体はCOVID-19パンデミックから抜け出す手段ではありません。 グローバル規模のワクチン接種とブースター接種、そしてマスクの着用とソーシャルディスタンスを通じた大規模な集団発生の防止で、COVID-19ウイルス変異株の先回りをすることが、感染と継続的なウイルス変異を最小限に抑えるためには依然として重要です。 COVID-19ワクチンや技術、そして技術革新の最新情報を入手するには、COVID-19リソースページに弊社の全出版物とデータセット、そして洞察が掲載されていますのでご活用ください。