NASAのアルテミス計画は月面への再着陸を目指す驚くべきプログラムですが、これにより未来の人類の宇宙および地球での食の在り方を再定義するかもしれません。 宇宙空間で植物をうまく育てる各種の要件を理解するために、7つの植物に焦点を当てた実験が承認されています。 宇宙での農業に加えて、3Dプリンターによる食品、包装方法、マイクロバイオーム(微生物叢)の新規応用などの新しいイノベーションは、地球上の食料に大きな影響を与える可能性があります。 宇宙における食料計画の課題(保存期間の長さ、閉鎖循環サイクル、栄養、料理ができないこと)は、地球の厳しい環境における栄養不足の改善につながる場合があります。
宇宙食に求められる基準
地上に暮らす私たちの多くは、食生活の多様性と栄養に注目していますが、宇宙食システムの重要な条件としては、以下の点が挙げられます。
1. 食品の安全性:植物を育てる高度な閉鎖循環型エコシステム
による再利用、廃棄物処理、食品の腐敗防止の実現
2. 信頼性:宇宙の過酷な環境に耐え、保存期間が長く、必要な保管スペースが最小限で済むこと
3. 栄養密度と食事の楽しさ(食べやすい、種類が多い、簡単に調理できる、など)
宇宙には固有の課題が存在する
宇宙における植物の栽培には課題がいくつか存在します。無重力、直射日光が当たらない、スペースに限りがある、水の供給が限られている閉鎖したエコシステムであることです。 無重力のため調理が難しく、シャトルのリソースの負担(質量、電力、クルーの時間、水、廃棄物の処理)を最小限に抑える必要があります。 包装済みの食品は、栄養素の劣化や必要な容量が多くなることから、必ずしも実現可能とは言えません。 将来、深宇宙を探査するような場合、限りのある食料と水しかなく、補給の可能性がない状態で、何年も旅を続ける必要があります。
文献の発表と特許のトレンド
NASAや他の機関による宇宙食に関する文献の発表や特許の取得は、数十年前から続いています。 CAS コンテンツコレクション™を使用して、2000年から2022年までの宇宙食と生活システムに関連する世界の科学文献を調査しました。これらの研究環境では、大規模な新しい宇宙計画の発表が、世界中で将来の論文と特許の増加を加速していることがわかります。 例えば、国際宇宙ステーションでは1993年の最初の発表以来、膨大な量の取り組みが行われています。その後の論文や特許の増加は、それ以来実施された2,500回以上の実験と高い相関関係にあります。 同様に、2011年のNASA商業乗員輸送プログラムの発表後に研究が増加し、2017年のアルテミス計画の後にも対応する研究の増加トレンドが見られました(図1)。
新たなソリューション:3Dプリンターによる宇宙食
この世のものとは思えないピザ 国際宇宙ステーションにおける食物の3Dプリントの新たな進歩は、地球上で直面している過去最大の食糧問題に多大な影響を与える可能性があります。 3Dプリンターは現在、食品に特定の成分を追加してさまざまなデザインでカスタマイズした食事を作れるようになっています。 今日の3Dプリンター用のインクには、乾燥肉、野菜、乳製品の粉末に、関連する微量栄養素を追加したものを使用できます。 印刷可能な食用インクとして最も一般的なものには、マッシュポテト、チョコレート、パン生地、チーズ、クリーム、ケーキの粉砂糖、フルーツなどがあります。
この技術は、宇宙食の消費期限を延ばすうえで欠かせません。 食材を無菌状態で、原料の状態で保存できます。 また、搭乗エリアの保管スペースも最小限に抑えられます。
微生物を使って栄養素を生産する
研究者は、空気中の成分と体内の老廃物を栄養素に変換するために、さまざまな種類のバクテリアを調査しています。 例えば、水素栄養細菌(水素をエネルギーとして代謝する単細胞の微生物)は、一種の発酵プロセスを通じて、宇宙飛行士の呼気中の二酸化炭素をタンパク質に変えることができます。 他の研究者は、パン酵母に近縁のYarrowia lipolyticaに人間の尿を与えると、脂質やプラスチックを生み出せることを発見し、自然の廃棄物を人間の健康に不可欠な栄養素に変える可能性を示しました。
包装済み食品
乾燥食品や冷凍食品は重要ですが、NASAでは新たな食品保存技術の新しいアプローチを模索しています。 例えば、加圧加熱殺菌と高周波滅菌により、包装済み食品の初期品質と栄養価が、より高いものにします。 また、研究者は食品の保存期間を5年まで延ばすために、より優れた包装方法を研究しています。
閉鎖循環系と宇宙農場
良好かつ安定的に栄養源を供給する素晴らしい選択肢として、宇宙船内の農場が重要となっています。 植物は、宇宙船内の廃水の再利用、酸素の生成、空気の浄化、排泄物の再利用などに用いることが可能なため、宇宙農園の存在は持続可能な環境づくりに役立ちます。 現在のところ、Veggieと呼ばれる宇宙庭園が存在します。 6種類の植物を育てることができ、実際にレタス、白菜、水菜、レッドロシアンケール、ジニアフラワーの栽培に成功しています。 これまで40年間に宇宙で栽培された植物の一覧は、こちらでご覧いただけます。
宇宙食研究の現実的な意義
この宇宙食分野における研究は、私達の食と地球との、より良い持続可能な関係につながります。 閉鎖型の温室や垂直農法は、必要な水と土地の量が少ないため、乾燥地、極地、遠隔地、人口密集地などで利用できます。 空気の成分を利用した食肉の生産により、家畜を減らし、土地と水の使用量を大幅に削減することが可能です。 宇宙食用に開発された高度な空気清浄機は、現在、食品の保存や手術室などで使用されています。
食品の3Dプリント技術は、地球上の食料不足を軽減する役割を果たすかもしれません。 3Dプリンターを使えば、どんな料理人より迅速かつ清潔に料理を作ることができ、さらに栄養価と食感もカスタマイズできます。 また、食用インクは、従来とは異なる食材の利用の幅を広げることも可能です。
このような技術すべてにより、消費者に近い場所で生産することで、輸送量、包装、流通、その他のコストを削減し、結果として環境フットプリントを減らすことができます。 継続的な宇宙探査の研究は、このように地球環境とその居住者である私たちにも恩恵を与え、地球の生態系を維持・保全するためのアイデアも与えてくれます。