2022年に向け、世界的な関心事のひとつに気候変動があります。 気候変動の主な原因は、化石燃料の燃焼であることは広く受け入れられています。つまり、石炭や石油などの化石燃料を燃やすと、大量の二酸化炭素が大気中に放出され、大気中の熱を閉じ込めて地球温暖化を引き起こすというものです。
スーパーマーケットのレジ袋や車のバンパーそして衣服にいたるまで、あらゆる製品に使われているプラスチックは、従来石油を原料とする合成ポリマーでできています。 これらのポリマーの構成要素は、原油精製から直接得るか、または精製製品から合成されています。 現在のプラスチック製品の製造工程では、世界の石油供給量の8〜10%を消費していると言われており、この数字は2040年までに倍増するものと見られています。
石油化学製品や従来のプラスチックの生産は、依然として石油に完全に依存しており、この再生不可能な資源は地球上から急速に枯渇しつつあります。 従ってプラスチックは多重問題であると言えます。つまり、従来のプラスチックの生産は資源の枯渇により、いずれは停止しなければなりません。同時に、この製造方法は生態系を破壊します。加えて、多くのプラスチック製品は再利用できないために膨大な量の廃棄物が発生し、適切に廃棄・リサイクルされないことでさらに大きな損害を与えるのです。
そこで世間一般の人は、使い捨てプラスチック製品の使用を減らし、包装のゴミを減らし、そして責任を持ってリサイクルすることで、「環境フットプリント」を減らし、環境保護に貢献できます。 製造業も同様、プラスチックを開発する際に石油に代わる資源を選択することで「環境フットプリント」を改善させることができます。つまり合成ポリマーではなくバイオポリマーを選択するのです。
「バイオポリマー」は、(その由来は問わず)生分解性ポリマーや生体適合性ポリマーを指すことがありますが、本ブログでは、バイオ由来ポリマー、すなわちバイオマスから作られたポリマーのみを指す言葉として使用します。再生可能な資源を原料としているので、大気中のCO2を固定し、そして温室効果ガスの排出を削減します。 また、多くのバイオポリマーは生分解性があるため、使用後の製品の廃棄にも柔軟性をもたらし、そしてリサイクルも可能にします。
バイオポリマーの種類
バイオポリマーの種類は、原料や製造方法によって大きく3種類に分類されます。
- クラスA - デンプン、セルロース、タンパク質、アミノ酸、およびその誘導体などバイオマスから直接得られる天然高分子。
- クラスB - 微生物や植物を使って生体内で合成されるポリマー、またはポリヒドロキシアルカノエート(PHA)やポリ乳酸(PLA)など、主に生合成されたモノマーから直接生成されるポリマー。
- クラスC - ポリエチレンやポリエチレンテレフタレート(PET)など、バイオ由来の代替モノマーから調製される従来型の油性ポリマー。
各クラスのバイオポリマーは、それが包装材料や農業であれ、手術用生体材料であれ、それぞれがさまざまな商用アプリケーションに適しています。
- クラスAおよびクラスBのポリマーはすべて生分解性があり、ほぼすべてがバイオベースです。しかし油性のプラスチックと比べて特性が劣るため、多くの場合補強用の充填材や衝撃改良剤と組み合わせて使用されます。
- クラスCのポリマーは、構造的には油性プラスチックに似ているものの、生分解性がほとんどないため、油性同様の廃棄やリサイクルの問題を抱えています。
バイオポリマーの利用拡大に立ちふさがる課題は、そのコストです。 発酵収率や効率を改善させるための戦略、または食品工場や有機廃棄物処理施設にバイオポリマーの生産を統合させるなどの取り組みによって高い製造コストを下げる努力は行われてはいるものの、コストは依然として大きな障害になっています。
バイオポリマーの現在の用途
商用バイオプラスチックは、主に包装用として使われてきました(表1)。 デンプンとPLAは、おそらく低コストであることから、最も多く製造されているバイオプラスチックです。 一方、PHAは製造コストが高いため、生産量はかなり低くなっています。
表1. 主要商用バイオポリマーの生産と用途
バイオポリマー | 2020年 グローバル生産量(トン) | 主要製造者 | 用途 | 生分解性 |
デンプンおよびデンプン混合物 | 435K | Futerro、Novamont、Biome | 柔軟梱包材、消耗品、農業製品 | 有 |
ポリ乳酸(PLA) | 435K | NatureWorks、Evonik、Total Corbion PLA | 柔軟梱包材、硬質梱包材、消耗品 | 有 |
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA) | 40K | Yield10 Bioscience、Tianjin GreenBio Materials、 Bio-on | 柔軟梱包材、硬質梱包材 | 有 |
ポリエチレン(PE) | 244K | Neste、LyondellBasell | 柔軟梱包材、硬質梱包材 | 無 |
ポリエチレンテレフタレート(PET) | 181K | 東レ、コカコーラ、M&Gケミカル | 硬質梱包材 | 無 |
ポリブチレン・アジペート・テレフタレート(PET) | 314K | Algix、BASF | 柔軟梱包材、硬質梱包材、農業製品 | 有 |
ポリブチレンサクシネート(PBS) | 95K | Roquette、三菱ケミカル、 Succinity | 柔軟梱包材、農業製品 | 有 |
コカ・コーラ社の「クールな」PlantBottle™
バイオポリマーにおける持続可能なイノベーション自体は、何十年にもわたって水面下で進展してきました。しかし、こういった進歩も、トップ企業が新製品を発表するまではニュースになることも、一般向けに公になることもあまりありません。
2015年の夏、コカ・コーラ社は、再生可能な資源だけで作られた世界初のプラスチックボトルPlantBottle™の容器を発表しました。 このボトルは、見た目や機能、そしてリサイクルも従来のプラスチック製のボトルと同じですが、石油を原料としないことで地球への負荷が大幅に削減されています。 こういった発表は、バイオポリマーの継続的開発や世界の主流製品での採用を大いに後押しします。
バイオポリマーに関する誤解と事実
これらの製品を広範囲に普及させるためには、一般の人がバイオポリマーについて持っているイメージも重要になってきます。従来のプラスチック製品に代わる持続可能な代替品としてのバイオポリマーのメリットは、一般的にも認識されているものの、同時に批判の対象にもなってきました。 その批判の中には、明らかに誤解や混乱から生まれたものもあれば、中にはまったく突拍子もないものもあります。表2に、最も頻繁に論じられている内容と、それに対する私どもの意見をまとめてみました。
表2. バイオポリマーに関する誤解と事実。
PBAT=ポリブチレンアジペートテレフタレート、PBS=ポリブチレンサクシネート、PLA=ポリ乳酸。
誤解 | 事実 |
バイオポリマーは生分解性ポリマーである | 必ずしもそうとはいえない。 ポリマーが生分解性であるかどうかは、その製造方法というよりも、最終的にはその構造に依存する。 クラスAとクラスBのほとんどのバイオポリマーがたまたま生分解性であるのに対し、クラスCのポリマー(PBSやPBATなど)では生分解性はわずかしかない。 |
バイオポリマーは、実際は主張されているように生分解性ではないので、プラスチック廃棄物の危機を解決することはできない。 | バイオポリマーやバイオプラスチックは、プラスチック廃棄物の蓄積を直接解決させるためのものではない。廃棄物に対する主な手段は、生分解性プラスチックとプラスチックのリサイクルである。 バイオプラスチックの最大のメリットは、再生不可能な石油やガスではなく、再生可能なバイオマスを原料に用いることにある。 |
バイオプラスチックは、たとえ生分解性でも、通常の条件下では十分に速く分解されないので、堆肥化の施設が必要になる。 | 生分解性は、一部のバイオポリマーの副次的な利点に過ぎない。 バイオポリマーは、従来のプラスチックと同様、劣化のスピードに大きな差がある。 例えば、PHAは環境条件下で非常に速く分解される一方、PLAやPBATは工業用堆肥の熱を必要とする。 さらに、分解が速すぎるとプラスチック製品としての有用性が損なわれてしまう。 |
バイオプラスチックは、梱包用途にのみ適しており、従来のプラスチック製品のすべてに取って代わることはない。 | バイオポリマーの応用は、特にクラスCのバイオベースのポリマーの開発により、著しく多様化している。 バイオベースポリマーの梱包製品用の生産比率は2020年で47%であり、従来型のプラスチックの40%に比べてわずかに高いだけである。 |
バイオポリマーの生産には多くの農地を必要とするため、人間や動物の食料生産に影響を及ぼす。 | 2019年において、バイオポリマーの原料生産に使用された農地は、世界の総農地の0.016%であった。 これは、仮に現在生産されるすべてのプラスチック製品がバイオベースであったとしても、また生産量に比例して使用する土地面積が増加したとしても、使用する農地の割合は2%を超えないということを意味している。 |
バイオポリマーの研究環境
バイオポリマー研究は近年トレンドとなっており、2019年の新興技術トップ10にも選ばれています。 これまでの研究とイノベーションは、CAS コンテンツのコレクション™(図1)に見られるように、過去20年にわたり継続的に行われてきました。この間、石油価格の変動や持続可能性の強化、そして気候変動への対処といった、全般の動きにもその都度対応してきました。 学術論文と特許の量で見ると、当初は緩やかに増加し始め、そして2009年頃から同じようなペースで加速してきています。 2014年頃からは、2020年までのジャーナル論文数の大幅な増加とは対照的に、特許論文数の伸びは相当鈍化しました。
バイオポリマーは、化石由来プラスチックの再生可能代替品として主に開発されているため、化石由来プラスチックの価格が大幅に上昇すれば、バイオポリマーの競争力が高まり、また研究者や発明家の熱意と信頼も高まるものと考えられます。 プラスチックの価格は原油価格と密接に連動していますが、原油価格は2000年代半ばから大きく上昇し、2008年に前例のないほどの急激なピークを迎えました。そこで2008年頃の、特に特許公開件数曲線に見られる変曲点などは、このことによって説明できるかもしれません。 2014年以降に原油価格が急落し、バイオポリマーのコストが相対的に再び上昇したため、たぶん発明者の意欲が減退し、同年は特許件数が横ばいになっています。
バイオポリマーのさまざまなクラスの利点、限界そして人気や、これら従来のプラスチック代替品に対する研究開発の関心が過去20年間でどのように変化してきたかについて詳しく知るには、こちらのCAS Insights Reportをお読みください。