植物の生長に伴う隠れた温室効果ガスの排出

Lisa Babcock-Jackson, Information Scientist at CAS, Willem Schipper , Owner, Willem Schipper Consulting

fertilizer agrochemicals blog hero image

食料生産における温室効果ガス排出においては、もっぱら牛がその責任を負わされています。しかし、あまり話題にされていないものの、植物由来の食品でも温室効果ガスは排出されているのです。確かに家畜は大きな要因である一方、肥料の生産などの「隠れた側面」も、食料生産システムで発生する137億CO2換算トンに寄与しています。

つまり、肥料や植物の補助栄養素(窒素、リン、カリウムなど)、そして土壌管理などが隠れた原因になっています。窒素やリン、そしてカリウムは農業には欠かせません。ただ、その供給源や生産、そしてサプライチェーンが温室効果ガス排出の要因となっている訳です。


リンのリサイクリングやサステナブルな肥料生産に関する最新の科学と市場トレンドに関して、専門家はどう言っているのでしょうか。 11月9日午前9時(米国東部標準時)開催の、活発で有益なウェビナーにご参加ください。登録はこちらです


GHG排出量が非常に多いアンモニア

世界人口が増え続ける中、2019年のFAOの報告書では、当然のことながら肥料用の窒素の需要も増加を続けると予測されています。肥料生産において、従来のアンモニア製造方法(ハーバーボッシュ法など)はアンモニア肥料の可用性を高める一方、二酸化炭素を大量に発生させてしまいます。 ところが、需要を満たすために、多くの場合現在はこの従来のアンモニア製造方法が集中的に使用されているため、温室効果ガスの発生量は今後も増え続けることになるのです。

よりグリーンなアンモニア製造は可能

現在、より環境に優しいアンモニア製造方法の開発に向けて、数多くの研究が進められています。 これは、持続可能な電力を使用して原料の水素を電気化学的に生成することで可能になります。 ただ、化学では例えば窒素の光化学的あるいは電気化学的還元など、より高度なコンセプトも存在しています。 図1は、窒素の直接電気化学的還元を図解したものです。 Hoshman氏らの分析では、直接電極触媒法は、水の電気分解とハーバーボッシュ法を用いた代替手法よりも、低コストであることが判明しています。

サステナブルな窒素固定
図1: 再生可能エネルギーを動力源とする、水と窒素の直接触媒によるアンモニア合成(出典: Gal Hochman, Al. S, et al, Potential Economic Feasibility of Direct Electrochemical Nitrogen Reduction as a Route to Ammonia ACS Sustainable Chemistry & Engineering 2020 8 (24), 8938-8948)

グリーンなアンモニア製造の奨励

経済的な観点から見ると、欧州委員会は、輸入品に対して二酸化炭素排出量への関税を計画しています。 この関税案は、厳格な気候変動政策の対象となるEUの生産者よりも、輸入業者のほうが有利になることを防ぐためにEUがとった方策です。 これらの法律は、2023年1月から2026年末まで、3年かけて段階的に導入されることになっています。

ヨーロッパにおいて、天然ガスベースに代わるアンモニア製造法を発見しようという試みは、天然ガスの価格が不安定なこと、そして現在の地政学的情勢がイノベーションの強力な推進要因になっています。 そういった試みと、低コストで大規模な電気分解とを組み合わせることで、グリーンなアンモニア製造方法は、まもなく価格競争力を持つようになるはずです。

天然資源としてのリンへの依存

ここ数年、「リン資源の危機」が報告されています。農家にとって手の届く価格になっているかということをはじめ、公害、肥料の過剰使用、そしてリン資源の地政学的支配などは、すべてこの問題の一部として認識されています。 また、採掘可能なリン鉱石の量と、その質の問題もあります。  

これは、食料と水の安全保障の問題であり、人口増加に伴い確実に増加します。 リン酸塩による水質汚染の管理コストは高く、またその結果発生する藻類による有毒作用も見逃せません。

リンのリサイクリング - 循環型経済の機会

廃水は、第2資源としてのリンの主要な供給源になります。どうせ廃水から除去されなければならないため、その回収方法もすでに提供されていることになるのです。 廃水や汚泥、そして下水灰からリンを回収するためには、まず化学的沈殿や生物学的リン除去のために微生物の利用などの手法を用います。

2001年以降は、肥料の栄養素回収に関連した廃水処理法の科学文献の発表が全体的に増加しています(図1)。 これらの文献では、生物学的処理法が最も多く登場します。続いて、物理的方法と化学的方法となっています。 リンのリサイクルという複雑なプロセス全体における一側面として、栄養素の回収があります。

廃水処理の分類
図2: 肥料の栄養素回収に関連した廃水処理法の科学文献

ストルバイト沈殿法は、廃水中のリン酸塩を除去する方法として、人気が高まりつつある方法です。 廃水処理設備の性能を向上させる一方で、リンの回収能力は高くありません。

しかも、廃水からリン酸塩を除去できたとしても、それを利用可能な形に戻すという次の課題が存在します。特に、既存の肥料クラスを標的とした場合はなおさらです。 従来の肥料製造経路では、回収したリンをドロップイン市場製品にするだけの適用範囲がありません。

下水汚泥や汚泥焼却灰から肥料を作るためのさまざまな方法の開発が現在進んでいます。 これらのプロセスでは、バリューチェーンで利用可能な物質を得るためには、多くの場合リン酸塩を含む廃棄物から始めて、大幅な化学変換を行うことになります。 たとえば、リンの回収技術には大量のエネルギーを必要とする場合があり(集中的な乾燥や濃縮の工程など)、それを管理する必要もでてきます。

詳しい情報

よりサステナブルな肥料の生産のために、科学と市場のトレンドが今後どのように集束していくか、専門家はどう言っているのでしょうか。Willem Schipper ConsultingのWillem Schipper博士とCASのLisa Babcock-Jackson博士が、よりグリーンなアンモニア製造とリン酸塩リサイクリングに関する独自の洞察を提供します。

11月9日午前9時(米国東部標準時)開催の最新ウェビナー「サステナブルな肥料における市場と科学のトレンド」にご登録ください。