COVIDという変化し続ける不確実性の中、新たな希望に満ちた新年を迎えましたが、私は過去2年間に私たち全員が経験した変化のスピードや幅、そして一貫性に感銘を受けています。 この変化のうち、どれが一時的な適応に過ぎないもので、どれが永続的な進化なのかはまだわからないものの、世界中のイノベーションの組織とそのリーダーにとって、変化のアジリティが重要な生存スキルになっていることは否定できないでしょう。 CAS、そしてCASのお客様に影響を与えた変化について振り返ると、確かに困難はあると言えます。しかし、このような変化に触発され、科学的イノベーションを共に行う方法を再考して最適化する大きなチャンスも見えています。
つながりが進歩を加速する
ワシントンポスト紙の記事で、カルロス・ロサダ氏は、コロナウイルスのパンデミックのパラドックスは、協力が必要にもかかわらず隔離を促すことだと述べています。 この主張は、パンデミックの地政学的現実を記述することを意図したものですが、科学的なイノベーションの分野にも当てはまります。 このパンデミックから学んだ確実なことのひとつに、イノベーションの成功を促進する内部と外部のコラボレーションの重要性が挙げられます。
情報の共有は、科学コミュニティ内の協働の最も基本的な側面のひとつです。 私どもが「CASは世界の科学をつなぐ」と言う場合、それは世界中のイノベーターのためにCASが科学情報へのアクセスと有用性を最大化する努力を反映した表現なのです。 研究者が他者の研究から学び、そこからの積み上げを支援することで、私たち全員の利益となる発見を加速することができます。 コラボレーションの力は実証されています。これを踏まえ、こういった世界的なつながりをさらに促進し、活性化させるには、どうすればいいのでしょうか。
CASにおける最近の取り組みでは、イノベーションの全過程における利害関係者のために、高品質の科学データと洞察へのアクセスを強化することに焦点をあてています。 2021年、私どもは関心の高い化学物質に関するデータにアクセスするためのオープンリソース、CAS Common Chemistryの大幅な拡張を開始しました。 また、CAS科学チームは、20以上のオープンアクセスの査読済みジャーナル記事や白書、そしてブログ記事を公開しました。そこでは、COVID-19治療学、脂質ナノ粒子、RAS阻害剤、化学への機械学習の応用など、影響の大きいイノベーション分野での最近の発展に関する洞察を提供しています。 これらの出版物に対する反響の大きさを踏まえ、2022年にはこの取り組みを拡張して、新たに出現した分野におけるさまざまな努力を結び付け、そして進歩を加速させることを目標に、さらに多くのトピックを取り上げ、重要な洞察を共有する新たな形式を模索していきます。
また、CASは最近CAS SciFinderディスカバリープラットフォームTMおよびSTN IP Protection SuiteTMのリリースにより、新しいエンタープライズソリューションモデルを発表しています。 これらのソリューションは、発見と開発のプロセス全体を通じて、さまざまな利害関係者と職能が必要としている科学情報リソースを一元的なソリューションとして提供することにより、イノベーションに集中する組織に非常に大きな価値をもたらすものです。 このアプローチでは、特定のユースケースに合わせたソリューションという形を通して、組織全体で高品質の情報に一貫してアクセスできるようになると同時に、より広範な科学コミュニティとのつながりも強化されます。
加速化するデジタル変革
数多くの執筆者が今回のパンデミックを、「大いなるアクセラレータ」と表現しています。つまりこの時期に経験した社会的、政治的、ビジネスの変化の多くは、パンデミックにより新たに起きたわけではなく、すでに起こり始めていた変化が加速されて実現したということです。 科学研究のエコシステムのデジタル変革について考えると、この意見は確かに的確だと思われます。 研究開発ワークフロー全体へのデジタルテクノロジーの適用は新しいものではありませんが、今回のパンデミックは明らかにその進歩を加速する触媒として機能しました。 Boston Consulting Group(BCG)のデジタル変革に関する調査ではこの傾向を定量化しています。その結果、企業の80%がパンデミック時にデジタル変革の取り組みを加速させようとしていたことが明らかになっています。
ただし、速さは必ずしも成功にはつながりません。すでに確立されている組織などの場合、その中で必要となるであろう複雑な根本的変革を考えると、なおさらです。 実際、同じこれらの組織では、デジタル変革の成功で主要目標を達成したと自己評価しているのは、わずか30%でした。 かなりの注力と投資にもかかわらず、認められた成功率が過去数年間であまり改善されなかったことは懸念ではあります。しかし驚きではありません。 科学進歩の速さを一段階変えるためのこれらの技術がもたらす途方もない可能性を考えたら、私たちが努力をさらに倍加しなければならないことは明らかです。 では、研究開発を行う組織とその利害関係者のデジタル変革の潮流を変えるには、何が必要なのでしょうか。
アジリティが基本的な要件
特にパンデミックの際に、デジタル変革を管理する上で最も難しい側面のひとつは、絶えず変化する状況を把握することです。 テクノロジーは常に変化しており、ビジネスのニーズも同様です。 つまり、どんなプロジェクトでもそれが完了するときにはすでに時代遅れになっているため、成功しなかったという認識に寄与する可能性があるということを意味しています。 パンデミックにより将来のビジネス要件がさらに不確実になっているため、重要なのは「デジタルのアプローチに初めから高いアジリティを組み込むにはどうすればよいか」ということになります。
デジタルの世界で柔軟性を確保する上で重要な点のひとつは、適切に構造化された高品質のデータ基盤を構築することです。 デジタルアプリケーションはデータから出発します。 一貫性のある構造に格納されたクリーンなデータこそ、データ資産が将来対応する必要があるすべてのアクティビティとアプリケーションに対して、はるかに高い柔軟性と効率性をもたらします。 堅牢な基盤を構築することで、組織はテクノロジーアプリケーションを変更したり、多様な共同作業者と情報を共有したり、または新しいデータソースを統合したりなどを、はるかに迅速かつ低コストで行えるようになります。 これこそが、研究開発におけるデジタル変革の成功率を高めるために、更なる注意を必要とする最も重要な単一の要因であると私は考えています。
このニーズを満たすために、CASは科学データのインフラストラクチャと管理のために、カスタムソリューションとコンサルティングを提供するグローバルな専門家チームを編成しました。 このチームは、組織の独特な要件に合わせたカスタムデータ構造の構築や、CAS科学者の多岐にわたる専門知識を活用した機械学習のためのカスタムトレーニングセットの収集、デジタルワークフローに高品質データを送り込むカスタムAPIのセットアップ、そして特許審査を迅速化するためのAIベースの特許類似性ソリューションの開発など、さまざまなプロジェクトで世界中の研究開発組織と連携しています。 こういった活発な活動があっても、研究開発におけるデジタルイニシアチブの主な阻害要因を克服し、そしてROIを増加させるこういったコラボレーションの努力は、まだその潜在的可能性のほんの一部でしかないことは明らかです。 来年も、CASはカスタムサービスの拡張に投資を続け、増大し続けるニーズに対応すべく対応能力を高め、そしてこのCAS独自の専門知識が弊社パートナー様にとっても必要に応じてすぐ利用できるものになるよう、取り組んで参ります。
プラットフォームを超えた価値を生むパートナーシップ
デジタル時代に真のアジリティを実現するには、最高のテクノロジー以上のものが必要です。 成功に向け信頼できるパートナーとの堅固な関係を構築すると、必要に応じてより効果的に調整し、今後の動向に合わせて計画を立てるられるようになります。 卓越した技術ソリューションに加えて、カスタムソリューションや人的資源、そして確固としたアドバイスでプラットフォーム以上のアセットと特化した専門知識を持つ、そんなベテランパートナーとの提携に投資することで、ビジネスや市場変化の結果台頭する新たな課題や機会に対応できる柔軟性を最大化することができます。
STN IP Protection Suiteの一部である新しいCAS Search GuardSMサービスへの高い関心は、この不確実な時代においてこの種の柔軟性に対しての価値が認められている表れと言えるでしょう。 企業全体でアクセスできる知的財産(IP)検索および分析ツールのポートフォリオを、CASの知的財産サーチャーのチーム能力で強化することにより、このソリューションは現在の動的な労働市場において、さらなる柔軟性とセーフティーネットをもたらします。 能力や機能における短期的な不足に対処する必要があるときに、CASの専門知識と人的資源をアウトソーシングによって柔軟に活用できるようにすることで、重要な決定も高品質な知的財産検索による確実な情報に基づいて行う事ができ、プロジェクトを予定通りに進めることができるようになります。
コネクテッド・イノベーションのエコシステムの達成
今年こそ、このパンデミックが終結してほしいと望んでいます。しかし新たな課題は常に生じるものです。 今回のCOVIDで思いを強くしたのは、効率的なイノベーションこそ生存の重要要件だということです。 明日がどうなるかは誰にもわかりません。しかし共に前進するつながりを築きそして強化していけば、このグローバルな科学コミュニティには、どんな新たな課題であっても解決策を見つける能力があるはず、と信じています。
あらゆるイノベーターが世界中の科学データと自社のラボを最新のテクノロジーとシームレスに統合し、進歩のスピードを最大限に高め、そしてブレークスルーを達成してソリューションをより早く市場に投入できるようになる、そんなコネクテッド・イノベーションのエコシステムのビジョンの実現に向けて、CASでは日々革新や進化、そして投資をし続けているのです。 そしてそのために、私たちはコンテンツのコレクションを拡張し、ソリューションプラットフォームを強化し、そして専門知識をより直接的に利用可能にすることで個別のニーズに対応し課題を克服する、そういったことに引き続き焦点を当てて参ります。 過去数年間のCASの進化と、毎年継続して行われている投資により、弊社は現在そして将来的なあらゆる形のグローバルな科学コミュニティの情報ニーズに対応できる、かつてないほど良い立場にいると確信しています。
新しい課題と機会が待つ新年を迎えるにあたり、CASチーム一同を代表して、できる限りの方法で皆様の成功をサポートすることをお約束いたします。 アカウントに関する簡単なご質問であれ複雑な解析やデータインフラの課題に関する質問であれ、喜んでお手伝いします。
