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脱炭素化を達成するには、信頼性の高い、クリーンなエネルギー源を大規模に開発する必要があります。 化石燃料から移行するにあたり鍵となるもののひとつとして水素があります。水素は長期保管が可能で、天然ガスの代替としてタービンの動力源として使えるほか、クリーンな燃料電池にも利用できます。 国際エネルギー機構(IEA)の指摘によると、2050年までにネットゼロ・エミッションを実現するためには、総エネルギー消費の最低10%は水素にする必要があるとしています。
水素は現在製造されてはいるものの、米国においては水素製造の95%が化石燃料を燃焼させることで水素の分離をおこなっており、これは排出量の多いプロセスであるため、脱酸素化には貢献していません。 そこで再生可能なエネルギー源で水分子を分解する、クリーンな水素製造が重要になります。 太陽光エネルギーを使って水を水素と酸素に分解する方法は、化学の「聖杯」のひとつとさえ呼ばれています。
ただし、この反応を商業化に適した十分な規模で実現するのは、依然として難題です。 材料には非常に具体的な特性が必要なため、科学者たちは、ふさわしい候補物質を見つけるために何十年にもわたって研究を続けてきています。 最近、私とCASの他の同僚とで光触媒の研究状況を調査しました。そしてCAS コンテンツコレクションTMから得られた結果では、科学界では商業化に向けて大きな前進があることがわかりました。
まだ行うべき重要な研究はあるものの、今この研究はやりがいのある時と言えます。
光触媒作用とは
光触媒作用とは、水性の媒体中に通常分散している半導体物質に光を照射することで、電子と正孔の対を形成させる化学反応です。 これは、1972年に本多健一氏と藤嶋昭氏により初めて実証されたもので、水に浸した酸化チタン電極に光を照射したところ反応が発生したのです。 この反応によって生じた正孔は、周囲の水分子からさらに電子を引き寄せるため、結果的に水は酸素と水素に分解されていきます。
このプロセスの結果、エミッションフリーな水素製造が可能になります。それは、貯蔵してクリーンな燃焼を行う燃料や化石燃料の代替燃料として使用することができます。 光触媒は、他のタイプの環境復旧、特に水の浄化や廃水汚染物質の分解にも有望です。 水中の微生物をはじめ、染料や化学物質などの非有機物質の分解にも成功しています。 このプロセスは、土壌中の農薬の浄化にも利用できる可能性があります。水中や溶液中以外の反応であることから、これは重要な技術的進歩と言えます。
しかしやはりこのプロセスの応用としては、複雑なインフラを必要としないクリーンな水素の製造が最も急務であることは間違いありません。 光触媒作用は粉末を水に加えるだけでよいため、太陽光発電を使って電解槽で水素を製造するなどエミッションフリーな他の方法よりもはるかに簡単になっています。 この結果、このプロセスを商業的に成立させるための最適な光触媒を見つける取り組みが加速しています。
光触媒の最新の研究
CAS コンテンツコレクションTM を分析したところ、論文や特許文献に引用されている概念で最も一般的なものは、光触媒反応と光触媒自体の材料特性に関するものであることが明らかになりました。 これは当然と言えます。光触媒が化石燃料に対して経済的な競争力を持つようになるためには、可視光を利用しなければならないからです。 太陽光の大半は可視光線領域に入るため、大規模な反応を駆動できるよう、無理なく太陽光を利用する必要があります。 具体的には、太陽光から水素への変換(STH)効率が最低6~10%以上であることが不可欠になります。
では、そのためには光触媒はどのような特性を持っている必要があるのでしょうか。 第一に、伝導帯と価電子帯が特定の位置にある必要があります(図2)。 これらのバンドによって、電子の移動が可能になります。つまり、これは半導体としての特性であり、光触媒反応には欠かせない要素なのです。 伝導帯は0eVで負の値、価電子帯は1.23eVまたはそれ以上で正の値である必要があります。 光触媒のバンドがこの位置にないと、反応に必要なエネルギーが十分に得られません。
第二に、バンドギャップ、つまり伝導帯と価電子帯の間の空間が可視光を吸収できるようになっていないとなりません。 この基準を満たすには、バンドギャップは1.23~3.1eVである必要があります。 酸化チタンは安定した材料で、この用途に適した位置にバンドがあります。しかし可視光を吸収できないため、大規模な光触媒では経済的ではありません。 そのため、この10年、研究者は他の光触媒に移ってきています。
図3からも分かるように、酸化チタン以外で最も研究されている光触媒として、酸化亜鉛、窒化炭素、有機金属骨格(MOF)などがあります。
これらの光触媒に共通する特性はバンドギャップが3.0eV未満であるため、可視光を吸収できるという点です(図4)。 しかし、こういった特性を持っているにもかかわらず、検討中の光触媒にはまだ欠点が残っています。 そのため、反応効率の向上を目指して、さらなる選択肢が模索されています。
今後の課題
CASの分析が示しているように、検討中の光触媒は、集光した太陽光を使用した場合を除き、いずれもSTHのしきい値である6%に達していません(図4)。
現在、適した特性のバンド位置とバンドギャップを見つけるため、触媒を組み合わせる試みが研究者らによって行われています。 現在検討中の最も有望な技術は、ねじれたバンド構造の光触媒をふたつ組み合わせるもので、これはステップスキーム(Sスキーム)ヘテロ接合と呼ばれます。 これらのバンドが共に作用する際、その位置によって電子は光触媒反応を強力に、そして効率的に実行できるようになります。これは、この技術の利用拡大に向けた大きな一歩と言えますi。
もっとも、単に2種類の触媒を組合せればいいという単純なものでもありません。 材料を組み合わせた結果、予想外のことが発生する場合もあります。 例えば電子と正孔は、目的の反応が起きる前に再結合してしまうことがあります。 そこで研究者は、この再結合プロセスを制御するための助触媒を探求しています。 助触媒は光触媒の表面に蒸着させることで、生成された電荷キャリアの活用を促進します。 助触媒の素材はいくつか研究されており、まだ解決すべきことはあるものの、光触媒の将来が明るいことを示しています。
水素を燃料源とした将来の実現に向けて
エミッションを出さずに水分子を水素と酸素に分解するのは、簡単ではありません。これはすでに研究者が数十年以上も取り組んできた課題です。 このプロセスのコスト効率が十分に上がり、クリーンな水素が化石燃料に取って代わるようになるには、まだ多大な進歩が必要です。
課題は手ごわいとはいえ、乗り越えられないと考える理由はありません。 CAS コンテンツコレクションTM の最近の分析によれば、光触媒に関する革新的な研究は増えています。 Sスキーム構成や助触媒の使用などの技術などが増えていけば、STHの効率やこの技術を商業化する能力も飛躍的に向上するでしょう。
継続的な実験と材料科学の改善を通して、世界は大規模な水素製造を達成し、そして脱炭素の将来を実現できるようになるはずなのです。