企業の知的財産(IP)ポートフォリオの価値は、イノベーションを重視する企業の無形資産となってきました。 知的財産主導によるビジネス取引の数や価値が増大するにつれ、知的財産ポートフォリオの財務評価は重要な分野になりつつあります。 評価は、買収、特許ポートフォリオの調整、ライセンスまたは訴訟におけるサポート意見として利用されています。 しかし、今日使われている最も一般的な知的財産の評価方法には、重要な特許を過小評価してしまうリスクにつながる、という盲点があります。
新興分野として、特許ポートフォリオの評価は、依然として科学というよりもむしろ芸術と考えられており、この複雑で微妙な違いに対する「最善の」アプローチが広く議論されています。 慣習的に、知的財産の評価は、財務専門と関連技術の分野の知識人によって進められるマニュアル作業とされて来ました。 評価では一般的に、知的財産を開発するための投資、類似特許の価値、および発明で期待される予測収益を含めたいくつかの要因が考慮されます。
最近になって、この評価プロセスを促進しコスト削減を図るため、アルゴリズム的なアプローチを利用したいくつかのソフトウェアソリューションが市場導入しました。中には新しいAI技術を活用すると謳ったものもあります。 これら自動化されたポートフォリオ評価のアプローチは、過去の関連特許取引の価値に関する市場データ、前後の引用の数、引用速度、および訴求点の長さなど、定量化可能な測定基準に大きく依存しています。
手作業やソフトウェアベースの特許評価にはともに限界があり、過去の市場データに過度に依存したり、特許情報の新しさ、市場競争力、その他重要な要素の考慮について欠如していました。 次に、手作業とソフトウェアの両者が多くの主要特許を過小評価してしまうリスクを伴う「前方引用データを活用した方法」に関連した、もうひとつの限度についてもここで取り上げておきます。
学術論文と特許同時発行の難しさ
前方引用とは、公開されている関心のある特許を新しい研究の基盤として引用している特許または学術論文のことです。 現在の知的財産の評価方法として、特許に開示されている発明の重要性または影響に関して代表するものとして、前方引用を活用しています。 しかし、大学と企業間の共同研究による発明の件数が増加しているため、前方引用の測定基準では不完全な場合がよくあります。 このような場合には、研究はまず知的財産権保護のため企業側が特許出願として提出し、次に大学側がジャーナルに発表します(ただし、特許出願と出版の時間差のために学術論文が最初に利用可能となる場合もよくあります)。 この二本立ての出版アプローチ(すなわち出版ペア)により、知的財産の評価に関連したいくつもの前方引用が生成することになります。
例えば、テキサスA&M大学の著者による以下の参考文献は、たとえ異なる数の物質や反応を開示していても、特許とジャーナルのペアの形となります。 この特許は後発の発明によって一度引用されているのに対し、学術論文は79回も引用されています。
学術論文が手作業またはアルゴリズムによる知的財産の評価で考慮されることはめったにありませんが、これらの共同作業で生ずる特許の過小評価はよくあることです。 引用データに大きく依存する自動化プロセスほど、この過小評価が発生する傾向があります。
学術論文からの前方引用はなぜ無視されるのか。
学術論文と特許は根本的に目的が異なるため、これらの出版物の組み合わせを一致させるのは容易ではありません。 特許は保護を重要視して記載しますが、学術論文は完全な開示を目的に記載されています。 このコンセプト対立の結果、出版物が異なる言語で書かれている場合には、表題、引用、著者名、発明の説明などが異なる出版物が追加されてしまう場合があります。 特許出願は多くの場合、まず現地の言語で国内特許庁に提出されますが、学術論文は英語で出版されます。 現在のことろ、関連する学術論文を関心の特許と一致させる簡単な方法はありません。
知的財産の評価プロセスにおいて、これら出版物の組み合わせをより完全に把握するための1つの方法は、特許とジャーナルの両方を網羅している、手作業で作成されたデータセットを活用することです。 化学および関連科学では、CASの科学者による独自の努力が出版物の組み合わせを一致させるための鍵となります。 例えば、重要な化学物質は、少数の例示化合物を含むマルクーシュ構造として特許に開示されているのに対し、学術論文では一般的な構造および補足情報にまとめられています。 文書の種類を超えて化学的性質を捉えるには、徹底的な引用への取り組みが不可欠です。
特許や学術論文の主題キーワードや化学物質の詳細な引用に加え、CASの科学者はすべての特許に対し、英語の表題と要約を提供しています。これにより、CAS SciFinderとSTNによる検索、およびCAS IP Servicesによる検索で、両方の出版物が見つかるチャンスを大幅に向上させています。
人間が精選した高品質のデータベースをもとに、そのうちアルゴリズムは広範囲の属性を素早く比較し、特許と学術論文をペアとして容易に識別できるようになるかもしれません。 これこそ、人間の知性と機械を組み合わせて、より完全なソリューションを提供する事例です。 貴組織がイノベーションを重視する中、より正確な知的財産ポートフォリオの評価が必要ですか。 CASがどのようにお手伝いできるかについては、こちらをご覧ください。