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スーパーキャパシタは、リチウムイオン電池(LIB)の代替品だと言われることがあります。それは、安全性の向上や、より速い充放電、より長い寿命など、さまざまな魅力的メリットがあるからです。 技術的には進歩してきたものの、2つの技術には根本的な相違点があります。グラフェンをベースとするスーパーキャパシタ技術のエネルギー密度には限界があり、将来的にリチウムイオン電池に取って代わることは起こりそうもありません。 ただ、他の応用では、補完的なエネルギー貯蔵装置として、特に輸送分野において実世界での準備は整っています。
スーパーキャパシタ技術 vs 電池
スーパーキャパシタがなぜ電池を駆逐していないのかの理由を理解するには、この2種類の機器の違い、特にその構造の違いを理解することが重要です(図1)。
- 電池は、エネルギー密度は高いものの出力密度は低い(エネルギーの放出が遅い)ため、一貫してゆっくりとエネルギー放出が必要な、長期的な用途に適しています。
- スーパーキャパシタは、それに対してエネルギー密度が低くて出力密度が高い(エネルギー放電が速い)のが特徴です。 その結果、電池ほど多くのエネルギーを蓄えることはできない反面、より高速に充放電を実行できます。 この特性により、素早い大量のエネルギー放出が必要で、しかも簡単に再充電できる用途に適しています。
エネルギー密度と出力密度の違いは、それぞれの技術が電荷を蓄える方法に起因しています。それが、それぞれの静電容量とエネルギー密度に影響しています。
- 電池では、エネルギーは電気化学的に貯蔵・放出されるため、充放電の速さは、対応する電気化学反応の速度に制限されます。 イオンは電極の表面ではなく、電極内にインターカレーション(挿入)されているため、電極内で拡散します。これにより、さらに充放電速度が遅くなります。
- スーパーキャパシタは、それに対して電極表面に静電的にエネルギーを蓄えます。 エネルギーは、ゆっくりとした電気化学反応ではなく、単純なイオンの動きによって放出されます。 電荷(イオン)は電極表面にのみ蓄積され、活物質内にインターカレーションされていないため、充放電プロセスには表面のみが関与し、電池より遥かに低いエネルギー密度になります。
スーパーキャパシタ技術のエネルギー密度向上の最前線にあるグラフェン
その根本的な相違点から、スーパーキャパシタが電池に取って代わる可能性は低いものの、研究はいまだにエネルギー密度の向上に焦点を当てています。 電荷の主な蓄積場所が活物質の表面であるため、研究の中心となっているのは、表面積の大きい活物質の開発です。表面積が大きければ吸着されるイオンの数も増え、最終的にはスーパーキャパシタの静電容量とエネルギー密度が高くなるからです。
炭素質材料、特に活性炭とグラフェンは一般的な活物質であり、グラフェンはその高い電気伝導性により人気が高まっています。 ただし、グラフェンは製造が難しく高価であり、一般的に活性炭よりも理論上の表面積が小さいため、工業規模のスーパーキャパシタに使用するのには困難が伴います。 グラフェンはスーパーキャパシタの活物質イノベーションの中心的存在であるため、その採用に不利に働くさまざまな要因を理解しておくことは重要です。
グラフェン電極の採用を阻む主な障壁
高品質のグラフェンを工業規模で確実に合成することは、依然として困難です。
グラフェンをスーパーキャパシタ技術に適した材料にしているその特性こそ、その合成に非常に厳格な条件を必要としているものでもあります。 それがグラフェンを、特に工業規模で、確実に合成することを困難にしています。 さらに懸念されるのは、たとえ工業規模で合成できたとしても、スーパーキャパシタに使用するには不十分な品質になってしまう可能性があることです。 2018年に行われたある調査で数十種類のグラフェン製品を分析した結果、グラフェンを50%以上含むものはありませんでした。 2020年にも行われた同様の、ただしより限定的な調査では、グラフェンと活性炭を比較した結果、グラフェンをベースとしているスーパーキャパシタは、活性炭のものより比静電容量が著しく低いことが示されました。これは酸化グラフェンの存在に起因する可能性があります。 これらの調査は2021年にISOグラフェン規格が発表される前に行われていることから、現在の市販グラフェンの品質を詳しく分析するには、追跡調査が必要です。
製造コストが高いグラフェン
グラフェンの合成条件を厳密に管理するには、特殊な設備やプロセスを使用する必要があり、工業生産には不向きです。そこで、グラフェンをベースにしたスーパーキャパシタではスケールメリットを実現しにくくなっています。 生産されたグラフェンは、その品質がISO規格に沿ったものであることを確認しないとならないため、高価かつ高感度の特性化技術を必要とします。 これは、特に中小企業にとっては、大きなの参入障壁がもうひとつ存在することになり、グラフェンベースのスーパーキャパシタ技術の発展を妨げている要因になっています。
凝集しやすいグラフェンシート
合成後、強いπ-π相互作用によって個々のグラフェンシートは重なって凝集するため、電気化学的に活性な表面積が減少してしまいます。 これにより、スーパーキャパシタのエネルギー密度が制限されます。 Skeleton Technologies社は、スーパーキャパシタに曲面グラフェンを使用することで、こうした相互作用を抑制し、再集積を防ぐ方法を発見しました。 曲面グラフェンがいかに画期的な発見かが話題の中心となりましたが(曲面グラフェンを用いたスーパーキャパシタは2010年の時点で報告されている)、この研究のスポンサー企業からは、その後の開発に関する続報がこの10年近くありません。
グラフェンのスーパーキャパシタ技術の学術研究
スーパーキャパシタ研究の最近の出版トレンド
上図の出版傾向が示すように、グラフェンを用いたスーパーキャパシタは依然として人気の高い研究テーマです(図 2)。 グラフェンはずっとスーパーキャパシタ研究環境の主流を占めてきているものの、導電性高分子をベースにしたスーパーキャパシタも研究の焦点として浮上してくるようになりました(図3)。 グラフェンと導電性高分子のスーパーキャパシタの出版数は2020年にやや減少し始めた一方、リグノセルロース系材料を用いたスーパーキャパシタの出版数は2021年まで増加し続けており(図4)、サステナブルな材料への関心の向上を示唆している可能性があります。
学術研究は進歩しているものの、研究室規模のデバイスで報告されているサイクル寿命は、多くの場合商業用スーパーキャパシタについて一般的に報告されている寿命(一般的に大体100万サイクル)よりもはるかに低いのが現状です。 また、エネルギー密度もまだ問題があります。現状では、スーパーキャパシタは非常に短期間しかデバイスに電力を供給できません。
- 2022年末、清華大学の研究者たちにより、1万サイクル後でもほぼ99%の性能を維持し、充放電電圧範囲3Vのフレキシブルなグラフェンスーパーキャパシタの発表がありました。 このスーパーキャパシタは、LEDや電卓など複数の小型電子機器に電力を供給しましたが、ただ数秒間程度しかもちませんでした。
- 別の2022年の研究では、インペリアル・カレッジ・ロンドンのグループが編んだグラフェンスーパーキャパシタを開発しています。 圧力センサーとして使用した場合、0.6秒の非常に高速な応答時間を発揮しましたが、あいにく静電容量はわずか1万サイクルで約90%まで減衰しました。
リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタ
スーパーキャパシタと電池のギャップを埋めるには、別のデバイスのアーキテクチャが必要になってきます。 リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタは、スーパーキャパシタの長所すなわち長いサイクル寿命と、電池の長所つまり高いエネルギー密度を兼ね備えたものになります。 これを実現するため、図5に示すように、充放電プロセスにリチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーション(電池型負極)と、アニオンの吸着/脱離(キャパシタ型正極)という2つの機構を利用します。 その結果得られるハイブリッドスーパーキャパシタは、従来のスーパーキャパシタの同等のものと比べ、数倍高いエネルギー密度になる可能性があります。
ただし、キャパシタ型の電極にグラフェンベースの活物質を使用すると、結局ハイブリッドではないスーパーキャパシタと同様の問題が発生しやすくなってしまいます。 さらに、リチウムイオンのハイブリッド・スーパーキャパシタのハイブリッド部分の特徴は、電池とスーパーキャパシタの両方の利点を享受できるという面がある一方で、その欠点も残っていることを意味します。 スーパーキャパシタよりもエネルギー密度が高く、そして自己放電やリーク電流も少ないのは確かです。しかし同時に、長期のサイクル寿命は短い上、負極でのリチウム化/脱リチウム化の反応速度も遅くなります。 最近の論文では、100W h kg-1のエネルギー密度で19,000サイクル後でも100%の静電容量を保持できるリチウムイオンハイブリッドキャパシタが報告されています。
スーパーキャパシタは電池に取って代わるのか
学界も産業界も、さまざまなスーパーキャパシター技術の性能向上に取り組んでいます。しかし、根本的な制約や工学的な障害が克服されない限り、スーパーキャパシタがリチウムイオン電池に匹敵する長期的な性能を発揮する可能性は高くありません。
- スーパーキャパシタは比エネルギー密度が低い。 湾曲グラフェンはグラフェンシートの凝集を防ぎます。ただ、スーパーキャパシタは充電貯蔵機構が異なるため、電池よりもエネルギー密度が低くなっています。 相当のブレイクスルーがない限り、LIB 1個分ですら、そのエネルギー密度に匹敵するには依然としてスーパーキャパシタが数個必要になります。
- スーパーキャパシタの過剰な自己放電。 スーパーキャパシタはサイクル寿命が長く、高い静電容量を維持できる一方、電池より激しく自己放電を行います。 電池の場合は、約1か月の間に蓄積された電荷の5%を失う程度です。ところがスーパーキャパシタでは、最大50%の電荷が失われる場合もあります。 このことは、急速放電や再充電が可能な用途では問題にならないかもしれません。しかし長期的なエネルギー貯蔵には影響します。
- グラフェンベースのスーパーキャパシタのほうがより高価である。 グラフェンを用いたスーパーキャパシタは新しい技術なため、その生産はまだスケールメリットの水準に到達していません。 品質要件もより厳しいこともあり、グラフェンの生産コストは活性炭よりも高額であり続けています。 将来的にはグラフェンが活性炭よりも優れた性能を発揮する日が到来するかもしれません。しかしグラフェンを使うことによりスーパーキャパシタの価格は上昇します。
- グラフェンをベースにしたスーパーキャパシターの応用は、ほとんどが未確認のままである。 すべての新しい技術で言えることとして、最初に市場に投入された製品が成功することは、それ以降の製品ラインが成功するためには不可欠です。 グラフェンをベースとしたスーパーキャパシター技術は、いずれも長期的な研究が実施されていません。しかも、ほとんどは限られた台数しか設置されていません。
スーパーキャパシタ技術の現状と今後の応用
輸送分野
前述したスーパーキャパシタが電池の代替になることを阻害している課題があるにもかかわらず、実環境での応用は出現しています。それでも、グラフェンベースのものはまだ新興のものばかりです。 最も注目されている用途のひとつとして、輸送分野があります。
- スーパーキャパシタ搭載バス車両が、中国とセルビアで導入されています。 そのうち1台の航続距離は25kmで、充電時間は6~7分と報告されています。 スーパーキャパシタのエネルギー密度の低さ、ひいては1回の充電で走行できる距離の短さを克服するため、このバスは車両基地またはバス停で充電されています。
- Skeleton Technologies社では、ブレーキ時に失われるエネルギーを最大30%回収できるグラフェンベースの電車用スーパーキャパシタを製造しています。 この技術は、スペインのグラナダ地下鉄システムの新型車両に採用され、2024年夏までに運行を開始する予定になっています。
- サムスン社では、急速充放電が必要な低電圧システムに適した車載用リチウムイオンハイブリッドを宣伝しています。
パーソナル電子機器
スーパーキャパシタは、いくつかの用途で成功を収めているものの、小型パーソナル電子機器の電源としてリチウムイオン電池の代わりになることは考えられません。 Skeleton Technologies社でさえ、同社の3Vスーパーキャパシタ SkelCap は電池と組み合わせて使用するものであり、代替品ではないと表明しています。 SkelCapの比エネルギーはLIBより約1桁低く、それはつまりLIB 1個分と同じエネルギー密度を得るには複数個が必要になるという事を意味しています。 スマートフォンやカメラといった小型のパーソナル電子機器に給電する場合、短時間の使用後にすぐまた充電しなければならないとなったら、仮にどんなに短時間で充電できるということになったとしても、消費者は関心を示さないでしょう。
まとめ
スーパーキャパシタは、輸送分野でいくつかの興味深い用途が見つかっているものの、現在のところリチウムイオン電池の実用的な代替品とはなりません。 リチウムイオンハイブリッドスーパーキャパシタを採用するなど、研究努力によってエネルギー密度や自己放電速度の面で画期的なブレイクスルーがもたらされない限り、スーパーキャパシタは補完的なエネルギー貯蔵デバイスに留まるでしょう。 さらに、グラフェンをベースにしたデバイスは、グラフェン活物質特有の問題により、ハイブリッド以外のスーパーキャパシタと同じ落とし穴に陥る可能性があるのです。
サステナブルなエネルギーに関して更に詳しく知るは、『より環境に優しい未来 - リチウムイオン電池と水素燃料電池』も併せてお読みください。