ワクチン接種を完了している場合でも、COVID-19の変種の影響を心配する必要があるのでしょうか。 いいえ。実際にワクチンはこれらのSARS-CoV-2変異株による入院と死亡を防ぐのに非常に効果的であることが示されています。 悪名高いこのデルタ変異株は、現在98か国と50州すべてで検出されているものの、政府のデータを分析した最近の研究によれば、COVID-19による死亡と入院の99%は、ワクチン未接種者であることが判明しています。
その他の変異株についてはどうでしょうか。 2021年6月、世界保健機関(WHO)は、SARS-CoV-2変異株に対する議論をわかりやすくするため、科学者でない人のための用語としてギリシャ文字を用いた命名法(アルファ、ベータ、ガンマなど)の採用を開始しました。 本記事では、これらの変種の属性と、それが世界の健康にもたらす将来的な影響についてまとめます。
SARS-CoV-2変異株の分類
米国政府の省庁間グループは、SARS-CoV-2ウイルスの変異株について3層分類システムを開発しました。
- 甚⼤な被害が想定される変異株 (Variants of High Consequence)
- 懸念される変異株 (Variants of Concern)
- 注目すべき変異株 (Variants of Interest)
現在のところ、最も危険な「甚⼤な被害が想定される変異株」に分類されている変異株はありません。 この最上位のの変異株は最も重大なレベルであり、その定義として、診断によって検出されず、ワクチンまたは他の治療法による効果も大幅に低下し、また下位層より重篤な臨床疾患(すなわち、入院数の増加)といった特徴があげられます。 一番下の「注目すべき変異株」にはウイルスの感染と免疫逃避に影響を与える遺伝子マーカーを示す変異株が含まれます。 デモグラフィック的なクラスター感染が発生すると、多くの場合それはこれら「注目すべき変異株」によるものです。 現在のところイータ株とイオタ株がこの層に分類され、監視が必要です。 「注目すべき変異株」には他にもゼータ株、シータ株、カッパ株、ラムダ株が存在します。
中間の階層である「懸念される変異株」には、よくメディアで報道される変異株が含まれます。 「注目すべき変異株」について記載されている基準に加え、「懸念される変異株」は、ワクチンの保護効果の低下、抗体による中和効果の大幅な低下、伝染性の増加および疾患の重症度の増加を示します。 この層に該当する変異株は、アルファ株、ベータ株、デルタ株、イプシロン株およびガンマ株です。これらについては、以下で詳しく説明します。
懸念される変異株 (Variants of Concern)
以前のブログ記事では、いくつかのSARS-CoV-2変異株とウイルス変異戦略について説明しました。 とは言え、これら変異株については、より多くのデータが得られるに従ってどんどん新しい事実が判明します。よって、常に最新情報を確認しておくことが不可欠です。 本ブログの後半部分では、「懸念される変異株」の特徴に焦点を当てます。 下記に示すSARS-CoV-2ウイルス「懸念される変異株」のインフォグラフィックによる要約では、各変異株に関する重要ポイントを簡潔に共有しやすくまとめています。
アルファ株
SARS-CoV-2のアルファ変異株は、2020年後期に英国で初めて確認されました。 アルファ株で確認されたスパイクタンパク質の変異では、ウイルスは宿主細胞に付着しやすくなっています。 英国の初期の統計と米国の最近のデータでは、この株は他のSARS-CoV-2変異株より55%致死率が高くなっています。 幸いこの変異株は、ワクチンとモノクローナル抗体療法に対する感受性が高くなっています。 ファイザー社 / ビオンテック社、アストラゼネカ社/ Vaxzevria、およびノババックス社/ Coravaxのワクチンでは、アルファ株に対する保護が維持されました。 アルファ株は現在、米国で最も新しい感染源となっているものの、最近の研究ではデルタ変異株が米国全体で急速に増加していることを示唆しています。 アルファ株は、米国の50州すべてと世界110か国以上で確認されています。
ベータ株
SARS-CoV-2ウイルスのベータ株は、2020年12月に南アフリカで発生しました。 この株におけるスパイクタンパク質の変異では、ヒト細胞により強く結合できるようになっています。 ベータ株に対するワクチンの有効性に関するエビデンスは限られていますが、ファイザー社/ビオンテック社のワクチンはこの変異株に対して72%-75%の有効性を示しています。 ジョンソンエンドジョンソン社のワクチンおよびノババックス社/ コババックスのワクチンも、同様の疾患への防御力の低下を示しています。 従って、ワクチンの保護力をこの変異体にまで拡大させるには、ワクチンの追加接種を検討する必要があります。 さらに、ベータ変異株は、モノクローナル抗体治療(バムラニビマブとエテセビマブ)に対する感受性の大幅な低下を示しました。 SARS-CoV-2のベータ株は、68か国および米国の35州で確認されています。
ガンマ株
SARS-CoV-2ウイルスのガンマ株は2020年10月にブラジルで初めて確認されました。 ガンマ株は南アフリカで主流になっている変異株です。 この株の変異では、ウイルスと宿主細胞との結合力が高まり、抗体によっては回避もできます。 ベータ変異株と同様、SARS-CoV-2ウイルスのガンマ株でも抗体治療に対する感受性の低下が示されています。 モデルナ社、シノバック社/ コロナバックおよびファイザー社 / ビオンテック社のワクチンでは、疾患に対する予防効果が示されています。 ガンマ株は、米国の29州と世界37か国で確認されています。
デルタ株
SARS-CoV-2ウイルスのデルタ株は2020年10月にインドで初めて確認されました。 最も急速に感染が拡大している変異株であり、現在その他のすべての変異株の感染ペースを上回っています。 この変異株には、スパイクタンパク質の「Eek」変異体が含まれており、これによって特定の抗体を回避できるようになっています。 その結果、デルタ株は感染力が大幅に増強していることが示されています。 この株は、インドにおいてCOVID-19の症例が数か月間で劇的に増加した原因です。 さらに、この株は2021年7月2日現在、世界98か国以上で確認されています。 ファイザー社/ ビオンテック社(88%)とアストラゼネカ社/ Vaxzevria(67%)の両ワクチンが、デルタ変異株による重篤な疾患に対する予防効果を維持できていることが示されました。 デルタ変異株に対するワクチンの有効性のデータは、現在のところまだ限定的です。
イプシロン株
イプシロン株は、カリフォルニア株とも呼ばれます。 2021年2月、この変異株はロサンゼルスの検体の半分以上で見つかりました。 この株は、以前の変異株(アルファ株とベータ株)より高い伝染性がありますが、特にアルファ株よりも感染力が高くなっています。 イプシロン変異株は、実際にはB.1.427とB.1.429の2つの系統で構成されています。 イプシロン変異株は感染力が20%高く、抗体感受性がわずかに低下しています。 2021年6月21日、イプシロン株は「懸念される変異株」の対象から解除されました。
SARS-CoV-2ウイルス変異株に対するワクチンの有効性
幸いなことに、今までのところは、現在のワクチン療法で上記のSARS-CoV-2変異株に対する有効性は維持されています。 ベータ株のような特に厄介な変異株に対しては、将来的にワクチンの追加接種が必要になる可能性はあります。しかし、現在のワクチン接種は効果的であることは実証済みです。 変異株または変異が生じても、ワクチンは依然として安全であり、また重症化や死亡を防ぐ上で非常に効果的であることが証明されているのです。 政府データの最近の分析によると、5月におけるCOVID-19の死亡症例18,000人以上のうち、ワクチン接種を完了済みだった人は約150人程度にすぎません。 SARS-CoV-2がその存続のため繰り返し変異しているという状況であっても、公衆衛生とソーシャルな対策を組み合わせるという現在の世界的なワクチン戦略は、やはり有効であることが証明されています。 SARS-CoV-2コロナウイルスを根絶し、この世界的パンデミックを集束させるチャンスがあるのなら、ワクチン接種は奨励される必要があります。
SARS-CoV-2「懸念される変異株」
WHOによる名称 | 重大な変異株 | 系統 | 発生地域 | 現在の感染状況 | ワクチンの有効性 |
アルファ | N501Y P681H Y144/145 |
B.1.1.7 | 英国 | 110か国 米国50州 |
ファイザー/ビオンテック アストラゼネカ/Vaxzevria ノババックス/Coravax |
ベータ | N501Y K417N E484K |
B.1.351 | 南アフリカ | 68か国 米国35州 |
ファイザー/ビオンテック ノババックス/Coravax |
ガンマ | N501Y K417T E484K |
P.1 | ブラジル | 37か国 米国29州 |
モデルナ ファイザー/ビオンテック シノバック/コロナバック |
デルタ | E484Q L452R |
B.1.617.2 | インド | 98か国 米国50州 |
ファイザー/ビオンテック アストラゼネカ/Vaxzevria |
イプシロン | L452R | B.1.427 B.1.429 |
米国カリフォルニア州 | 米国 2021年6月29日に対象から解除 * |
現在接種可能なワクチン |
* 表は、接種可能なすべてのワクチンの情報ではなく、引用された特定の研究のみを記載。