最終更新日:2020年12月22日
最近のCOVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する有望なニュースにより、2020年を通じて世界中で日常生活を一変させたパンデミックという暗闇に、やっと一筋の光明が差しました。 2種類のmRNAワクチン、つまりファイザー社とBioNTech社により開発されたものとモデルナ社により開発されたものが、米国で緊急使用許可(EUA)を受け、また英国とカナダでも認可を受けました。その他多くの候補ワクチンも、まもなく認可される予定です。このように数か月以内に複数のワクチンが一般提供される予定がある中、多くの人々にとっては、希望と同時にさまざまな疑問がわいてきます。 ここでは、質問を受けた現在のCOVIDワクチン候補に関するよくある科学的な質問にいくつか回答し、参照すべき追加情報の主なリソースを紹介します。 十分な情報に基づいてワクチン接種を決定する上で役立つような、正確かつ科学的に検証を受けた情報源を皆さんには他の方々と共有していただきたいと思います。
COVID-19向けに、主にどんな種類のワクチンが開発されていますか?
複数の異なるワクチン開発手法に基づいて、現在200以上のCOVID-19ワクチン候補が世界で開発されています。 すべてのワクチンは、疾患の原因となる病原体の構造に類似した、弱毒化または不活化した病原体(または抗原)を体内に投与することで作用します。これにより、実際に病原体が侵入した際にその特定の病原体を検出し、効果的に反応するようにヒトの免疫系を訓練することが可能になります。 しかし、個々のワクチンの構築基盤は、使用される抗原の種類と抗原が人体の免疫反応を刺激する方法において、それぞれ異なります。
mRNAワクチンは、ワクチン研究分野では比較的新しい種類のワクチンですが、 ジカ熱ウイルスとサイトメガロウイルスに対するワクチンとして、この技術は非常に有望であることが明らかになっています。 ファイザー社/BioNTech社のワクチン(BNT162b2)とモデルナ社のワクチン(mRNA-1273)の両候補は、他のワクチンに先駆けて一般に接種可能になる予定です。どちらも同じ手法を用いたワクチンで、さらに20以上のmRNA COVID-19ワクチン候補が現在開発のさまざまな段階に達しています。
免疫反応を起こす抗原を直接体内に送達する代わりに、mRNAワクチンは細胞が抗原を作るために使用できる遺伝子コードを持つmRNAの断片を送達します。mRNAは温度の上昇または人体内の酵素により容易に劣化する脆弱な生体分子です。 そのため、この種のワクチンは超低温で保管する必要があります。 また、この種のワクチン処方のmRNAは、安定性を保持して人体細胞内へのmRNAの送達を促進する脂質ナノ粒子に封入されます。
mRNAワクチンはまだあまり実績がありませんが、ウイルスの素材を使用する従来型ワクチンより安全だと考えられます。病原体の導入や遺伝子変異の発生リスクを最小限に抑えるからです。 mRNAワクチンの製造も他の種類のワクチンより迅速かつ低コストで、大量生産しやすくなっています。これは現在のCOVID-19の緊急性においては、特に重要です。
mRNAワクチンの詳細については、最近のブログを読み、細胞レベルのワクチンの作用について示した以下の動画をご覧ください。
非複製ウイルスベクターワクチンは、疾患を起こす抗原タンパク質を表現する遺伝子情報を送達するベクターとして不活化したウイルスを使用します。しかし、このウイルスキャリアは遺伝的に修正されているため体内で自己複製することはできません。 このワクチン技術の使用例として、最近欧州連合で緊急使用のライセンスを受けたエボラウイルスワクチンが挙げられます。 このワクチンプラットフォームで開発中のCOVID-19ワクチン候補は30種ほどあり、主なものとしてはAstraZeneca/Oxford (AZD1222)とJanssen (Ad26COVS1)のものが開発されています。 このワクチン開発手法には、高い生産能力、低コスト、保管および輸送時の温度要件があまり厳格でないなど、いくつかの利点があります。
タンパク質サブユニットワクチンは、生体内で抗原を作るために細胞が使用する遺伝子情報を導入する代わりに、免疫反応を起こす抗原タンパク質を直接体内に導入する点でmRNAワクチンとも非複製ウイルスワクチンとも異なります。 FluBlokのインフルエンザ用ワクチンは、この手法を用いて認可されている現行ワクチンの例です。 現在70種以内のCOVID-19ワクチン候補がタンパク質サブユニットワクチン技術をベースに開発中ですが、その10種以上が臨床試験に進んでいます。
不活化ウイルスワクチンは、病原ウイルスを細胞培養により成長させて製造されるワクチンで、不活化した上で体内に導入されます。 最も一般的なインフルエンザワクチンがこの手法を使用しています。 現在20種以内のCOVID-19ワクチン候補が不活化ウイルスワクチン手法で開発中です。 体内にウイルス細胞全体が導入されるため、この手法は広範囲の抗原タンパク質に適用されます。また、免疫反応の点では本当の感染を模倣しています。 しかし、生体ウイルスの取り扱いに対応した高度なバイオセーフティーレベルの施設が必要とされるため、製造能力には限界があります。
各ウイルスの種類の詳しい比較と作用機序の詳細情報については、こちらの記事をご覧ください。
どのようにしてCOVID-19ワクチンはこれほど迅速に開発されたのでしょうか?
従来のワクチン開発には、設計、開発、前臨床試験、臨床試験、規制機関による審査など、研究から市販まで往々にして15年間ほどかかっていました。 ですから、1年以内にCOVID-19の非常に効果的なワクチンが複数承認あるいは承認に近いところまで至っているという事実は驚くべきことです。 この記録的な開発速度は、開発や試験に不十分な点があったことを示すわけではありません。 これらのワクチン開発では手順の省略も規制基準の下方修正も行われていません。 実際に開発プロセスが迅速化したのは、次の理由です。(1)中国の科学者が1月上旬には世界中の研究コミュニティーにSARS-CoV-2ウイルスの遺伝子配列を公開したのを初めとして、かつてないレベルで研究者が協力しあい、情報を共有したこと。 (2) mRNAワクチンは新技術と見なされていますが、基本的考え方は1990年代に登場し、SARSの大流行から2003年より継続されていたmRNAの研究がCOVID-19に対しても活用されたこと。 (3) COVID-19ワクチンの開発では、このようなワクチンの調整プロセスを可能な限り優先的に進めて、事前に配布を計画する米国のOperation Warp Speedなどの取り組みを通じ、世界中の政府により金銭的および規制面で積極的に支援されていたこと。 (4) 広範囲に感染したパンデミックと人々の関心の高さにより、後期臨床試験を複数同時進行できる十分な人数の参加者が確保できたこと。
どのCOVID-19ワクチンがまもなく提供されますか?また効果が最も期待できるのはどれですか?
現在、世界中で50以上の候補ワクチンが臨床評価中であり、170近くが前臨床評価中です。 30か国以上がCOVID-19ワクチンの開発に取り組んでおり、そのうち半数以上で1種類以上のワクチンが臨床試験に進んでいます(図1)。 最初に一般向けの提供が予想されるワクチンは、最近米国や英国そしてカナダで販売が承認されたファイザー/BioNTechとモデルナによるmRNA ワクチンです。中国とロシアでも、それぞれ開発したワクチンの流通が始まり、臨床試験の終了前に認可に踏み切りました。
以下の表は、後期臨床試験の予備的有効性データが公表された4種の主要なワクチンの主な特長をまとめたものです。 mRNAワクチンはどちらも、最初のデータでは、AstraZeneca/Oxfordの非複製ウイルスベクターワクチン候補よりも高い有効性を示していました。 しかし、後者はコスト面と保管要件の面で利点があります。 Janssenが開発した別の非複製アデノウイルスベクターワクチンは、大規模な臨床試験登録が予測されており、1回の投与で済む可能性があります。しかし、有効性データまだありません。
ただし、最初に提供されるワクチンが、必ずしも全員にとって最善の長期的解決策とは限らないので注意が必要です。 上記の先行ワクチンに加えて、多くの有望なワクチン候補が現在臨床試験に向けて開発が進んでいます。 この中のいくつかは、複数回の投与の必要性、極端な保管温度の要件、短い保存期間、新しいワクチンプラットフォームに対する一般の信頼性の欠如など、先行する候補ワクチンが直面している主なロジスティックス上の課題を克服する代替ワクチンとなる可能性があります。
これらの追加の後期段階の候補は、承認されると、物理的、臨床的、公的な医療インフラに制限のある地域におけるワクチン接種プログラムを支援する上で特に重要です。 例えば、Novavaxが開発して現在第III相臨床試験を行っているNVX-CoV2373は、既存のB型肝炎ワクチンと同じワクチン技術をもとにしたタンパク質サブユニットワクチンです。 このワクチン候補は、mRNAワクチンより副作用が軽度で、より強い免疫反応をトリガーし、通常の冷蔵温度で保管できるだけでなく、既存技術であるため安全性に関する一般の信頼を得やすい可能性がります。 もう一つの例であるArcturus TherapeuticsのARCT-021は、現在第II相臨床試験を行っているmRNAワクチン候補です。 これは自己複製RNAを直接細胞内に送達し、非常に低用量の注射1回で接種できます。 乾燥凍結されるため、ARCT-021も通常の冷蔵温度で保管可能です。
COVIDワクチンの安全性はどのように確認できるのでしょうか?
ワクチン接種は、現代文明で最も偉大な医学的成果の一つだと考えられています。 過去に大勢の死因となった恐ろしい感染症の多くから、人々を開放してきました。 200年以上前のエドワード・ジェンナー博士による牛痘ウイルスワクチンの先駆的な研究以来、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、ポリオ、A型肝炎とB型肝炎、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザなど数多くの恐ろしい感染症用のワクチンが、基本的な医療の一部となっています。 COVID-19ワクチンの開発プロセスも、優先的な研究と承認への注力により利点以外には、何の懸念もなく多くの人々が受けているこれらのワクチンの開発に使用されていたプロセスと何ら変わりません。
一般向けに導入する前にワクチンで実施する必要がある開発、評価、規制機関による審査のプロセス全体は、安全性を最優先に置いて注意深く策定されています。 ワクチンの臨床試験は、ワクチンの有効性を確かめ、短期的および長期的な安全性の問題を除外するために、多様性に富む治験ボランティアの集団など、大規模に実施する必要があります。 豊富な以前のワクチン開発データでは、最も重篤なワクチンの反応と副作用は接種から6週間以内に生じることが明らかです。 このため、EUAの認可を検討する前に、FDAは第III相臨床試験から少なくとも2か月分の安全性データを収集することを求めています。また、参加者のデータは長期的な問題が生じないことを確認するため、何年間も追跡調査されます。
主なCOVID-19ワクチンの臨床試験参加者人数は、過去のワクチンの臨床試験と同じです。 Pfizerの臨床試験データでは、4万4000人の参加者のうち、現在までに170例のCOVID-19感染が確認されています。 これらの症例のうち162例はプラセボ投与群であり、8例はワクチン接種群でした。 Modernaの30,000人の臨床試験データでは、COVID-19の確定症例はワクチン接種群で5人のみでしたが、プラセボ投与群では90人が発症しました。 大部分の治験参加者は何らかの副作用を経験しましたが、その多くは軽度であり、疲労感、頭痛、注射部位の痛み、筋肉痛などがあり、多数の参加者の2回目の接種の後で顕著でした。
ワクチンのCOVID-19予防効果はどれくらい持続しますか?
COVID-19の感染者の免疫効果とワクチン接種による免疫について、その程度のすべてはまだ明らかになっていません。 研究者は、COVID-19患者の血中抗体レベルは回復後数週間で急激に低下することを報告しています。 しかし、共に再感染に対する迅速な免疫反応を可能にするメモリーB細胞とT細胞は、はるかに長期間持続することがわかっています。 これらの細胞が長期的な免疫効果をもたらすという考えは、回復したCOVID-19の患者が6か月間以上は再感染する可能性が低いという観察により裏付けられます。 さらに、科学者はCOVID-19ワクチン接種により獲得した免疫は自然のウイルス感染による免疫より強いとも予測しています。 この考えは、ModernaのmRNAワクチンの早期の抗体テストで、回復したCOVID-19患者で観察されるよりも抗体が多く作られていること、ヒトパピローマウイルスや破傷風のワクチンなど、多くの大規模に使用されているワクチンの長期的データにより裏付けられます。 同様に、現在まで観察されたデータから、このコロナウイルスはインフルエンザより速く変異することはないため、研究者が毎年COVID-19の新しいワクチンをデザインし直さなくてもよい可能性が高いと考えられます。
ただし、重要なのは、大部分のCOVIDワクチンの臨床試験は、個々のワクチンが安全であることを証明し、疾患をどれだけ効果的に予防するか確認するために設計されていることです。 必ずしも、ワクチンが完全に感染を予防することが確認されるわけではありません。 従って、来年さらなるテストが実施されるまでは、たとえ感染しなかった場合でも、これらのワクチンがウイルスの拡散から人々を守るかどうかは不明のままとなります。 ですから、人口のかなりの部分がワクチンの接種を受けるまで、マスクの使用とソーシャルディスタンスが推奨される可能性があります。
科学的な洞察、オープンアクセスできるデータセット、特別報告書など、さらに詳しいCOVID-19ワクチンと治療薬の情報については、CAS COVID-19関連リソースをご覧ください。