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今年の初めに、CASは科学文献と特許文献のレビューから得られたRNA医薬品に関する洞察のコレクションを紹介しました。 それ以来、CASはこの分野の市場トレンドを調査し、そしてCAS コンテンツコレクションTMの調査から得られた洞察とPitchBookやPharmaprojectsのデータを組み合わせることにより、投資家が注目している技術的アプローチと適応症を追跡することに成功しました。
以下に、このCASの分析から得られた7つの主要ポイントを記します。
1. 投資はここ数年間で活発化している
mRNA COVIDワクチンの成功し、その潜在的影響として2020年以降は、RNA治療薬やワクチンに流入する投資家の資金額が急増しました(図1)。 企業の総数も、投資額の増加ほど急激ではないものの増加しています。これは、新企業の設立よりも、既存企業への資金投入が増加していることを示していると考えられます(図1)。
2. 大部分の投資が、がんの研究開発に流れている
どの適応症に最も資金が集まっているかを調べたところ、投資が集中していたのは、がん、感染症、肝臓および代謝性疾患などでした。 予想どおり、最近の主要投資先はがんであり(図2)、これはその治療薬研究開発の市場規模を反映しているためです。 これは、ほとんどの投資が感染症や肝臓と代謝性疾患に向けられていた2012年~2016年の前回の期間と比べると、若干変化しています。
興味深いことに、この2つの時期の間で投資が大幅に増加したにもかかわらず、特許件数はそれほど劇的な増加が見られません(図3)。これは、投資の多くが、新たな知的財産の発見よりも既存の特許の開発に集中していることを示唆していると考えられます。
3. がんの研究開発への投資の内訳は、mRNA、siRNA、CRISPRの各アプローチ間でほぼ均等に分散している
どんな種類のRNAが開発中なのかを詳しく見ると、がんの適応症の中ではmRNA、siRNA、CRISPRベースの各アプローチに大体均等に資金が配分されていることがわかります(図4)。 なお、ここではCRISPRはRNA治療薬に入れています。RNA治療薬というカテゴリーには入らないとする人もいるものの、この技術は標的をガイドRNAに依存しているためです。
4. 感染症と肝臓/代謝性疾患プログラムでは、望ましい分子はmRNAとなっている
抗がん剤治療薬の開発プロジェクトとは対照的に、感染症を標的としたプロジェクトでは、主にmRNAワクチンの開発が行われています(図4)。 mRNA COVIDワクチンが最近成功したことで、ワクチン開発におけるこの手法の強みとスピードが明らかになり、感染症治療でもmRNAが注目されるようになったと考えられます。
肝疾患や代謝性疾患では、mRNAも望ましい投資対象の分子です。ただし、本稿執筆時現在、米国FDAにより承認されている4種類のsiRNA治療薬(パティシラン、ジボシラン、ルマシラン、インクリシラン)は、いずれも肝臓の酵素産生が標的となっています。
5. 最近のすべての適応症への投資は、主にmRNAとsiRNAを支援するものであり、またパイプラインにはmRNA治療薬よりsiRNA治療薬の方が多い
Pharmaprojectsのデータによると、すべての適応症においてmRNAが最も多くの投資を受けており(図5A)、2017年から2021年にかけてはパイプラインにsiRNA製品の方が多かった(図5B)にもかかわらず、2022年には状況が変わり、パイプラインにあるmRNA製品の数がsiRNA製品の数を大きく上回りました。
しかしながら、この情報を文献レビューと合わせて読むと、circRNA、lncRNA、エクソソームRNAなど、より新しく記載された形態のRNAが急速に関心を集めていることがわかります(図6)。 これらの新しいタイプのRNAははたして影響を及ぼすのか、及ぼすとしたらどの程度なのか、そしてどの程度速く開発段階に移行するのか、興味深いところです。
A | B |
図5. 最近の投資は主にmRNAを支援している(A)一方で、パイプラインではsiRNA治療薬のほうが多い(B)。 (AのデータはPharmaprojects、BはPitchBookから得られたデータ。)
2。" data-entity-type="file" data-entity-uuid="5354442a-c63b-4109-8c28-56c4bb161ecf" src="/sites/default/files/inline-images/Figure%206_0.png" />6. RNA医薬品の開発企業の多くは、単一タイプのRNAに焦点を当て、複数の適応症を標的としている
RNA治療薬を開発している上位の企業を調べたところ、アストラゼネカ社を除き、各社とも1種類のRNAの開発に注力しており(表1)、その主要技術をさまざまな適応症に応用していることがわかりました(表2)。
表1. 大部分の企業が単一の種類のRNAに注力している
mRNA | アストラゼネカ ビオンテック Cartesian Therapeutics モデルナ Stemirna Therapeutics |
ASO | アストラゼネカ Ionis Pharmaceuticals Sarepta Therapeutics |
siRNA | Alnylam Pharmaceuticals Arrowhead Pharmaceuticals アストラゼネカ Dicerna Pharmaceuticals Silence Therapeutics Sirnaomics |
Aptamer (RNA) | TME Pharma(旧NOXXON Pharma) |
miRNA | アストラゼネカ |
CRISPR | Beam Therapeutics CureVac |
表2. 大部分の企業は自社技術を複数の適応症に応用している
Alnylam Pharmaceuticals | 感染症、神経疾患、肝臓、がん、腎臓、血液 |
Arrowhead Pharmaceuticals | 感染症、神経疾患、肝臓、がん |
アストラゼネカ | 心血管、肝臓、メタボリック、がん |
Beam Therapeutics | 目、肝臓、がん、血液 |
ビオンテック | 感染症、がん |
Cartesian Therapeutics | 神経疾患、呼吸器、自己免疫、がん |
CureVac | 感染症、がん |
Dicerna Pharmaceuticals | 感染症、肝臓、アルコール依存症、腎臓、血液 |
Ionis Pharmaceuticals | 目、感染症、神経疾患、肝臓、末端肥大症、自己免疫、肝臓、腎臓、血液 |
モデルナ | 感染症、心血管、肝臓、自己免疫、がん |
Sarepta Therapeutics |
神経筋 |
Silence Therapeutics | 心血管、がん、血液 |
Sirnaomics | 感染症、呼吸器、肝臓、がん、血液 |
Stemirna Therapeutics | 感染症、がん |
TME Pharma(旧NOXXON Pharma) | 移植、自己免疫、肝臓、腎臓、血液 |
7. RNA医薬品への全体的な投資は、2021年と比較して2022年にかなり減少した
RNAプログラムへの最近の投資トレンドについてひとつ興味深いのは、2022年の投資額が全体で2021年に比べて大幅に減少したことです(図7)。 この減少は、合併と買収 (M&A) の総件数が約半分しか減少していないことから、主にM&Aの案件規模の縮小に起因しているようです。
資金提供されている科学をもっと掘り下げる
RNA治療薬への投資増加は、特にがんや感染症、肝疾患、代謝性疾患、そして希少疾病など、現在治療不可能な疾患に対して新たな選択肢を提供する大きな可能性を秘めています。 ただし、克服しなければならない課題、特にRNAの安定性、バイオアベイラビリティ、組織のターゲティングなどにおいて、課題が数多く残っています。 その他の商業化の課題やその克服に向けた戦略に関しては、CAS コンテンツコレクションから得られた洞察が満載のホワイトペーパー、『RNA由来の医薬品 - その研究トレンドと開発の考察』をお読みください。