シャワーから海まで - マイクロプラスチックの危険性に警鐘を鳴らす
プラスチック汚染は、深刻なグローバル問題になっています。もはや、取り返しのつかない環境破壊を引き起こしているのです。 マイクロプラスチック粒子(または単にマイクロプラスチック)は、1μm~5mmのプラスチック片です。これが、新たな汚染物質として大きな懸念になっています。 マイクロプラスチックの暴露に関する2022年世界保健機関(WHO)報告書では、マイクロプラスチックが海、空気、土壌、飲食物の中など、あらゆる場所で見つかっていることが記されています。
マイクロプラスチックは、一次発生源からも二次発生源からも生じます。 一次マイクロプラスチックはその大きさは5 mm未満で、発生源は化粧品や洗剤のマイクロビーズや、合成繊維のマイクロファイバーなどです。 二次マイクロプラスチックは、より大きなプラスチックの破片から発生し、その大きさや組成も、より不均一です。 二次マイクロプラスチックの例としては、車両のタイヤの破片、塗料や道路標識、船舶塗装そしてマイクロファイバーなどから遊離した粒子などがあります。
マイクロプラスチックがなぜこれほど環境内に一般的に存在するのかを理解するためには、その発生源と生成、そして最終的な行先を把握することが重要です(図1)。 プラスチックに対してライフサイクルアプローチを取り入れることで、生産と消費の両方のシステムにおいて重要なホットスポットを特定できるようになります。そして、プラスチック製品の各段階における、以下に対する潜在的な影響を考慮できるようになります。
- 気候
- エコシステム
- 健康
- 経済
マイクロプラスチックは、摂取、吸入、皮膚暴露などさまざまな方法で、生物内に取り込まれます。 マイクロプラスチックと、その関連化学物質や添加物は、慢性炎症性疾患やがんなど、健康面で無数の悪影響を及ぼすと考えられています。 マイクロプラスチックが海洋生物に与える影響に関する証拠は、摂取や光合成の減少から繁殖の減少まで多岐にわたっています。 また、マイクロプラスチックは有毒な化合物や金属を運ぶこともあるため、さらに害を及ぼす可能性があります。
すでに警報が鳴り響いています。 今すぐマイクロプラスチックに関連する脅威に対応する必要があるのです。 克服が困難に見えるこの問題に対して、十分な取り組みがなされているのでしょうか。
マイクロプラスチックに関する文献のトレンド
マイクロプラスチックやマイクロファイバー、そして関連トピックに関するCAS コンテンツコレクション™のデータを分析した結果、最終的に約9,500件の論文が見つかりました。 主な論文の傾向としては、2011年(n=81)から2021年(n=2,811)までの10年間で、マイクロプラスチックの論文は30倍以上増加している一方、同時期の特許出願件数は安定的に推移していることがわかりました(図2)。
CASのデータで明らかになったのは、マイクロプラスチックに関連する文献を発表している国のトップは中国で、米国、ドイツ、韓国、イタリアがそれに続いています(図3)。
マイクロプラスチック研究に登場している物質の上位5つは、エチレンホモポリマー(ポリエチレン)、ポリスチレン、1-プロペンホモポリマー(ポリプロピレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)であることが示されました(図4)。 この調査結果で注目されたもう一つの物質はセルロースです。逆説的ですが、これはポリマーの代替物として(電子機器、生物医学、マイクロプラスチック除去などの応用で)使用されたためということに加え、マイクロプラスチックとしてセロハンやレーヨンに(再生セルロースの形で)存在しているためです。
マイクロプラスチックの課題に立ち向かう
自然環境に存在しているマイクロプラスチックには、どう対処すればよいのでしょうか。 海の環境からマイクロプラスチックだけを除去するのに提案されている方法として、船舶システムの利用、廃棄物回収システムの利用、そしてプラスチック成分により排泄物が水面に浮くムール貝の利用、といったものまであります。 しかし、水の採取による方法は難しい場合があり、またこの方法で既存のマイクロプラスチックを直接除去する今までの取り組みは非常に限定的でした。
マイクロプラスチックが環境に流入することを阻止する方法で実現可能なものとしては、排水処理施設を利用する方法、洗濯機に付属品を取り付けてマイクロファイバーを捕捉する方法、そして摩擦を最小限に抑えるための、または衣服の機械的完全性を向上させるための衣服製造工程を変更する方法、といったことなどが挙げられます。
CASの文献分析においてマイクロプラスチック除去関連の上位キーワードとして明らかになったものは、filtration (ろ過)、wastewater plants(WWTP、下水処理プラント)、そしてmembrane bioreactor(MBR、膜バイオリアクター)などでした(図5)。 こういったキーワードを多く含む論文の数は、2010年代半ばから大きく増加していることから、問題に対して即時に反応があったことが示唆されます。なお、除去関連の研究努力は、マイクロプラスチック研究全般と同様のペースで増加しているようです。
恐らくここでわたしたちができる最も重要なことは、全般的にプラスチックの使用量を減らすことではないでしょうか。 シャンプーバーや竹スポンジなどの生分解性またはサステナブルな代替品と共に、ゼロウェイストショップやエシカルファッションのブランドなどは、すべて人気が高まってきています。
マイクロプラスチック汚染への対策には、科学者、研究者、企業家、政府、そして一般市民全員による長期的な決意と努力が必要になります。 WHOの場合のように、既存データが不十分なため、エビデンスの質が強固でないとされてしまうこともあり、そういう事でもマイクロプラスチック除去の取り組みに対する障害になってしまうためです。
マイクロプラスチックの健康に対する真の影響を明らかにするためには、例えば細胞組織内での滞留や排出、結合活性などを含む、より多くの実施調査と実験研究が必要です。 また、より小さな粒子(ナノプラスチック)を検出できる分析ツールの改良も、重要な課題として挙げられます。
マイクロプラスチック問題に取り組む方法は無数にあることは専門家も認識している一方、マイクロプラスチック除去のための資金調達や、その収益性の低さも大きな課題として立ちはだかっています。 資金援助とプラスチック使用に対する規制法案の強化によって、よりサステナブルななプラスチック経済、そしてよりクリーンで健康的な未来に向けた進歩を加速させることができるでしょう。 このトピックに関しては、弊社のMicroplastics Insight Reportでも詳しく取り上げています。そちらもお読みください。