グリーンケミストリーを製薬業界に - イノベーションのためのサステナブルな環境の構築

Jonathan Agbenyega, Ph.D. , Business Development Manager

海面上昇と気候変動が世界中のコミュニティーに影響している現在、工業国はアウトプットを管理し、環境への影響を削減するプロセスを探しています。 1990年代から躍進を遂げているアプローチにグリーンケミストリーがあります。これは「有害物質の使用や発生を低減あるいは廃絶する化学製品やプロセスの発明、設計、そして応用」に注目した科学分野です。

1998年、ポール・アナスタス氏とジョン・ワーナー氏がその共著の中で、化学製造による人体と環境への影響を削減するさまざまな方法など、グリーンケミストリーの基盤を形作る12の原則を設定しました。 ところが、業界によっては、グリーンケミストリーの実行導入は採算性の意味で正当化できない妥協になる、と見るところもあります。

グリーンケミストリーで製薬業界に波を起こす

ACS Green Chemistry Instituteは、次のように述べています。「グリーンケミストリーとエンジニアリングにおいて、あれだけ研究の進歩が見られたのに、主流の化学業界ではまだその技術を完全には受け入れていません。 現在、有機化学物質の98%がまだ石油から作られているのです。」グリーンケミストリー運動が政策や商行為、そして消費者の認識などに影響を与え続けて行く中、企業は収益を維持しながらも「グリーン化」できる新しい方法を模索する必要が出てきています。 これは、特に製薬業界に言えることです。

ACS Green Chemistry Instituteは、「製薬業界におけるグリーンケミストリーとグリーンエンジニアリングの統合を加速させつつ、イノベーションを促進する」ために、ACS GCI Pharmaceutical Roundtableを結成しました。この円卓会議には、アストラゼネカ、バイエル、イーライリリー、 グラクソ・スミスクライン、メルク、 ノバルティス、ファイザー、武田、そしてその他各社が参加しています。

製薬業界では、歴史的に実績のある製造法や研究方法を変えることに抵抗を示してきました。その意味で今回、これほど多くの有名な製薬会社が関わっていることは心強い限りです。 各種規制や知的財産、フェイルファスト要件などですでに課題を抱えている産業にとっては、グリーンケミストリーという原則を採用することはさらなるハードルになるとみなされがちです。しかし製薬会社は、それがもたらす効率性や経費削減に気付き始めています。

グリーンケミストリーの原子経済の原則(つまりプロセスで使用される材料はすべて使い切って最終製品に組み込まれるように合成方法を設計するべきであるという原則)を製薬R&Dに適用することで、 副産物は減り、ひいては保管や廃棄コストが最小限に抑えられます。コストには、溶媒も大きく影響します。化学オペレーションの標準バッチの50%〜80%が典型的に溶媒であり、エネルギー消費の大部分も占めているほか、プロセス安全上でも最大の懸念事項になっています。

例えば、メルク社ではCOVID-19の治療薬の抗ウイルス剤、モルヌピラビルの製造において、より環境に配慮した方法を開発しました。 その結果、溶剤の無駄が省かれ、収率が1.6倍向上し、5つあった工程が3工程に短縮されるなどの利点がありました。 2022年には米国環境保護庁はこの功績を評価し、Greener Reaction Conditions Awardを授与しています。

アムジェン社でも、特定の非小細胞肺がんの治療用新薬であるルマクラーズ™をよりグリーンに合成できる方法を開発しています。 その結果、大量の溶媒廃棄物を発生させていた精製工程を削減することで、年間317万ポンドの節約と、収率の向上といった利点がありました。 米国環境保護庁はこれに対しても、 2022年にGreener Reaction Conditions Awardを授与しています。

グリーンケミストリー運動の先端を行く

どの製薬会社でも、その根本目標は革新的な医薬品を提供して世界中の暮らしを向上させることにあります。 この目標を環境に優しい方法で、しかもサステナブルに達成するためには、製薬会社はその分野での最新の研究へのアクセスが必要になります。 従来の合成プロセスを超えたイノベーションが必要なのです。

1990年代後半ごろ、そしてアナスタス博士とワーナー博士の革新的な共著が出版されたのと時を同じくして、薬剤の設計と合成法におけるグリーンケミストリーの利用に関する研究が劇的に増え始めました。 今では、科学文献にはこの分野に関する210万本を超える雑誌論文が含まれています。

他の新興分野にも言えることですが、科学文献における一貫性のない用語の使用は、最新の発見を利用したい場合の障害になります。 製薬会社では、サステナビリティのための合成方法を最適化するにあたり、よりグリーンな化学、つまり反応や試薬、溶剤そして触媒を研究者が簡単に見つけられるような情報ソリューションが必要とされています。

CASの科学者達は、世界最大の化学洞察のコレクションを収集する際に、グリーンケミストリー関連の情報もインデックス化しています。 この知的情報のインデックス化により、薬剤研究者は必要なグリーンケミストリー情報をすばやく探し出すことができます。この情報には、比類ないCASコンテンツコレクション™に収載された、4万5000件以上もの「グリーン」化学反応も含まれています。

またCASでは、パッケージング開発など、製造の他の側面での最新グリーンケミストリーの動向についての展望も提供しています。 詳細は、『よりグリーンなプラスチック代替品、バイオベースポリマー』を取り上げた、CAS Insight Reportをご覧ください。

サイトカインストーム警報 - 免疫と感染症におけるサイトカインの重要な役割

Yingzhu Li , Senior Information Scientist, CAS

cytokines in severe COVID-19

サイトカインストーム警報 - 免疫と感染症におけるサイトカインの重要な役割

COVID-19に関連した主な死因は、呼吸不全、そしてそれに続いて敗血性ショック、心不全、大量出血そして腎不全となっています。 血清テストでは、炎症性サイトカインストーム反応は、COVID-19の重症度と死亡率とに関連性があることが示されています。 したがって、サイトカインの生物学的機能と、COVID-19患者におけるサイトカインストーム反応の発症機序に関する理解を深めることは、効果的な治療戦略を開発し、そして死亡率を低下させる上での鍵となります。

サイトカインとは

サイトカインは、マクロファージやリンパ球、そしてマスト細胞などの各種免疫細胞をはじめ、内皮細胞(血管とリンパ管の内側を構成する細胞)など他の種類の細胞によって生成される、低分子量の細胞外シグナル伝達タンパク質のグループです。 人体に存在するサイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、リンホカイン、ケモカイン、腫瘍壊死因子(TNF)など複数のクラスがあります。 サイトカインは、細胞の増殖や先天/後天免疫反応、炎症誘発作用と抗炎症作用を含む、各種生物的機能の調節に関わる細胞表面受容体に結合することで人体の免疫調節を行います。

ウイルスに感染すると、サイトカインが免疫系を刺激して病原体を排除し、破壊された細胞を除去し、そして損傷した組織を修復します。 サイトカインはこのような方法で人体が病原菌と戦う手助けをしています。 ただし、サイトカインのバランスが崩れたり過剰に生成されたりすると重大な副作用を引き起こす場合もあります。


RNA治療薬は、感染症やウイルス感染症の状勢をどのように変えていくのでしょうか。 RNAの新たなトレンドと将来の機会に関する詳細は、Insights Reportの最新号をご覧ください。


サイトカインストーム疾患の原因

サイトカインストーム症候群(CSS)またはサイトカイン放出症候群(CRS)とは、ウイルス感染で一般的に引き起こされる全身の炎症反応です。 大量の細胞が炎症誘発性のサイトカインを過度に放出するのがその特徴です。 この制御されない炎症プロセスは、敗血性ショック、多臓器損傷、そして臓器不全さえ引き起こすことがあります。

ウイルスがヒトの宿主細胞に侵入すると、子孫ウイルスを複製して放出する場合があります。これはパイロプトーシス(炎症に起因するプログラムされた細胞死)を引き起こすことがあり、これは同時に体内の先天的および適応的免疫システムを活性化させます。 ウイルスの感染は、図1に示すように、内皮細胞と肺胞マクロファージによって、炎症性サイトカインとケモカインの生成を引き起こします。 こういったサイトカインストームは、感染部位に単球やマクロファージ、そしてT細胞を誘引し、それによりさらに炎症性サイトカインが生成されるという悪循環が発生します。 肺におけるT細胞の凝集も重症のCOVID-19患者ではリンパ球の血中レベル低下(リンパ球減少症)を引き起こします。

サイトカインの免疫病原性を示した図
図1 . COVID-19におけるサイトカインストームの免疫病原性

 

サイトカインストームに対する身体の反応

免疫細胞の最初の活性化が機能性または機能障害性の免疫反応を引き起こします。 機能性免疫反応の際は、細胞毒性T細胞(CD8+)が感染した細胞を直接攻撃して、中和抗体がウイルスと結合して細胞死(アポトーシス)を開始します。 次に、肺胞マクロファージが中和されたウイルスを除去してアポトーシスした細胞を貪食します。食菌作用というプロセスです。 大部分の場合、このプロセスを通じて感染は解決します。炎症性サイトカインが減退し、そして患者は回復します。

しかし、一部の症例では機能障害性の免疫反応により他の免疫細胞が肺に集まります。 その結果、炎症性サイトカインの過剰生成が起こり、サイトカインストームが発生します。 サイトカインストームが発生すると、血管透過性の上昇により液体と血液細胞が肺胞に移動可能になり、肺水腫、ARDS、そして場合によっては呼吸不全を引き起こします。 こういったサイトカインの臨床症状により、敗血症や播種性血管内凝固症候群といった全身性炎症をはじめ、組織の損傷、そして最終的には多臓器不全を起こす場合があります。

リンパ球減少とサイトカイン上昇は、ウイルス力価および疾病重症度との間で正の相関関係が見られます。したがって、そういった血清の測定により、医師はサイトカインストーム症候群の影響を受けやすい患者を効果的に特定し、時宜を得た医療介入を行えるようになる可能性があります。 ただし、重症COVID-19における宿主免疫反応のサイトカインの役割と関連する病態生理学的機序については、更なる研究で完全に定義付ける必要があります。

サイトカインストームを切り抜けるための治療戦略

現在のところ、重症COVID-19の症例におけるサイトカインストーム症候群発症の管理に対する承認薬はありません。 炎症の抑制によく使用されるものとしてコルチコステロイドがあるものの、このような薬は肺損傷を悪化させる可能性があるため、COVID-19患者に対しては慎重になる必要があります。現在は、IL-6を介した経路を標的にしたものなど、いくつかのサイトカインとその受容体を標的とした代替の免疫抑制剤戦略が研究中になっています。

SARS-CoV-2感染は免疫細胞を活性化してIL-6とその他の炎症性サイトカインを放出します。 図2で示すように、IL-6は可溶性のIL-6受容体(sIL-6R)と結合し、内皮細胞の表面上で別のタンパク質gp130二量体との複合体を形成します。 これが内皮細胞からのサイトカインの放出を起こし、それがさらに感染部位に免疫細胞を誘因し、より多くのサイトカインを生成してサイトカインストームを引き起こします。 IL-6受容体拮抗薬は、IL-6受容体と結合してIL-6との相互作用とそれに続く生物学的事象も遮断します。

COVID-19の患者では過剰なIL-6がサイトカインストームを引き起こすことがあるものの、IL-6は肺の修復と再構築を支える重要な役割も担っています。 つまり、患者の予後に影響を与える重大な要因となっている可能性があるわけです。

IL-6媒介経路の図
図2 IL-6媒介経路に対する治療

 

サイトカインストームの臨床試験で得られた曖昧な結果

一部のCAR-T細胞治療と関連しているサイトカインストーム症候群治療のために承認されている抗IL-6受容体抗体、トシリズマブの臨床試験が、中国のCOVID-19の患者を対象に始まっています。 トシリズマブの治療を受けた21名の重症患者の初期結果は有望でした。 投与した全患者について初日で体温が正常に戻りました。 75%の患者は酸素吸入の必要性が減り、全患者が最終的に退院しました。トシリズマブは今度は米国でも臨床試験が実施され、死亡率での改善は見られなかったものの、入院期間の短縮への関連性は認められました。別の抗IL-6R抗体のサリルマブも臨床試験の結果、サイトカインストーム症候群の治療には顕著な有効性は認められませんでした。

これらの結果は期待外れであった一方、サイトカインは重要な宿主防御システムを構成していて免疫反応を調節していること、また逆にCOVID-19の重症例の悪化や場合によっては死亡にさえ結びつくものであるということには、変わりはありません。 したがって、サイトカインストームを効果的に抑制する治療法を開発することは、COVID-19の死亡率を下げるために必要な重要研究対象であり、また他の炎症反応におけるサイトカインの役割について理解を深められることにもつながる可能性があります。

治療イノベーションが、COVID-19を超えたところでも何世代にもわたっていかに医療を革新していくかについては、CASのホワイトペーパー『RNA由来の医薬品 - その研究トレンドと開発の考察』をお読みください。

mRNA型COVID-19ワクチンがCOVID-19に対抗する仕組み

 

mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが患者に注射されると、小さな脂質小胞がmRNA分子を体液中で運び、抗原提示細胞(APC)と呼ばれる免疫細胞と融合します。mRNAワクチンは、APCに対して、脅威に対する免疫反応を引き起こす抗原というタンパク質を作るよう働きかけます。

重要なデータの構築によりブラジルの生物多様性からイノベーション実現へ

Steven P. Watkins , Scientific Data Engineer

Brazil Biodiversity

かなり昔に撮り始めて今も増え続けている膨大な家族の写真コレクションを想像してみてください。 例えば、多くの人がよくやるように、整理箱など一か所にすべての写真を集めても写真はきちんと活用されず、コレクションとして価値が上がることもありません。 一枚の写真を見つけるのに長い時間がかかり、他の人とシェアをするのも困難です。 そんな訳で、整理箱の写真コレクションは開けられることも使われることもなく、たんすの肥やしになってしまいます。

現在のデジタルツールを使用すれば、以前に比べてはるかに簡単に写真を検索、シェア、整理することができます。 整理されたコレクションに素早く写真をアップロードして、世界中から閲覧できます。 このような手段が利用可能になった現在、人々は整理箱に写真をバラバラに詰め込むことをやめ、パワフルなデジタル写真コレクションとして収集することを選んでいます。

科学者は貴重な研究データについて、同様の課題に直面しています。 コンテンツを収集してまとめるだけでは十分ではありません。適切に構造化や組織化して整理しないと、開発者は情報をフル活用することはできません。 強固なデータ基盤は、日常的な研究から、AI、予測分析、機械学習などのデジタル技術の実装まで、研究開発のあらゆる活動に不可欠です。

ブラジルの生物多様性の保全

ブラジルには地球の生物多様性を構成する15~20%の種が存在しています。しかしその豊かな生物多様性のほとんどが未探索のままになっています。 整理された情報がないため、研究者が検索やスクリーニング、関連性のある化学物質との比較を実行することがきわめて困難になっています。 このことが、新たな標的を特定したり以前の発見をもとに構築すること、あるいは、イノベーションを推進する能力を大きく制限しています。。

その結果、サンパウロ州立大学(IQ-UNESP)の研究者たちは、ユニークなブラジルの生物多様性に関する関連情報にアクセスしやすくする画期的な方法を探し求めました。 希少種を絶滅の危機に追いやる都市化と森林伐採の拡大は、系統的に収集整理されたデータの必要性をさらに高めていました。 標本を迅速に処理して分類しないと、物質に関する情報は永遠に失われてしまうかもしれません。

貴重な情報を残すことの必要性は、2018年には危機的レベルに高まりました。大規模な火事でリオデジャネイロ国立博物館が焼失し、希少な標本が完全に失われたことで研究が阻害されたのです。 これを受け、CASの専門家はブラジルの科学コミュニティーに対する支援を拡張し、IQ-UNESPと提携して自然の生物活性化合物の情報を整理し、将来の研究に確実に利用できるようにしました。

CASの科学情報専門家とブラジルの天然物研究者とのコラボレーションにより、より洗練された形に整理された天然物のコレクションが構築されました。 データは公的に利用可能なNuBBE(Nucleus for Bioassays, Biosynthesis and Ecophysiology of Natural Products)データベースに体系的にまとめられました。サンパウロ州立大学化学研究所(IQ-UNESP)教授であるバンデラン・ボルザニ博士とサンパウロ大学サンカルロス物理学研究所(IFSC-USP)のアドリアノ・アンドリコプロ博士が立ち上げたプロジェクトです。

CASの専門家チームは、深い科学的知識と専門技能を駆使してデータを管理し、30,000件以上の関連する科学出版物から情報を抽出して処理しました。 完成した情報コンテンツは、ブラジルの天然生物活性化合物への容易なアクセスと有効利用を可能にし、イノベーションを支えています。

CASとIQ-UNESPのコラボレーションにより、ブラジルの豊かな生物多様性に関する54,000件以上の物質のデータコレクションがいかにして生み出されたか、その詳細はNuBBEデータベースのロゴケーススタディをダウンロードしてお読みください。

アクセスしやすい整理されたデータは洞察を後押しする

迅速なイノベーションの鍵となるのは効率性です。 信頼性の高い科学情報にアクセスして検索ができないことには、新たな発見への道は閉ざされます。 事実、データの整合性とアクセスのし易さの問題により、開発の全作業のうち10~20%が意味もなく繰り返される結果を引き起こしています。 したがって、研究チームは広範囲に渡り一貫性があり正確な科学情報およびビジネス情報にシームレスにアクセスする必要があります。さもないとコスト増大につながる遅延や誤りの危険にさらされます。

科学情報の量と複雑さは最近数十年で爆発的に増大し、相互につながりのない未整理のデータの混沌とした状況を生み出しました。 同一組織内のシステムであっても多種多様なソースがあり、様々な形式と質が異なるデータが混在しています。 このような状況で、しっかり整理され検索可能なデータレポジトリを作成して維持することは困難ですが、その重要性は計り知れません。

科学データの管理と監督責任に関するFAIRガイド原則によると、データを検索可能、アクセス可能、共同利用および再利用が可能な状態にしておくことが不可欠です。 正しい意味論上の意味とつながりを元にデータを整理し標準化することは容易ではなく、専門的なスキルと多大なリソースの投資を必要とします。 そのため多くの組織は、CASのような外部の専門家に委託し、迅速かつコスト効率に優れた方法でデータ資産の価値を最大化しています。

科学的専門知識によりデータの価値を最大化する

一貫性のある検証済みデータの強固な基盤があれば、研究チームと技術の効率良い発展が可能になります。 一例として、内部データのアクセス性と正確性に問題を抱えていた企業が、CASの協力のもと、自社のナレッジマネジメントシステムを統合して標準化したところ、その会社の研究者は年間3,300時間の作業短縮を実現しました

高品質なデータセットの構築と維持には専門知識が必要です。 CASは、50以上の言語の話者からなる何百人もの広範囲の専門分野にわたる科学者を擁しています。 アルゴリズムはデータ処理を支援することが可能ですが、分散した情報の断片の中で事実を解釈して関連性を見つける経験豊富な科学者の能力を置き換えるようなアルゴリズムは存在しません。

CASの専門家は貴組織の特定のプロジェクトに合わせてコンテンツのコレクションを収集整理します。 貴組織が求める要件に合わせて構築することでワークフローを合理化し、発見能力を増大させ、社内外のリソース投資の効果を強化して、幅広いイニシアチブを加速することができます。

CASのカスタムサービスは、すでに多くの組織でデータ収集と統合に関する重大な課題を解決するのに役立っています。 貴組織のデータが持つ力を最大限に生かす方法については、弊社までお問合せください

AI創薬 - AI設計の新薬候補として最初のヒト臨床試験を評価する

Todd Wills , Managing Director, Consulting Services

Neural network artificial intelligence

AIの活用による発見はさらに勢いを増しており、重大な成果を上げています。そしてこれには創薬も含まれます。AIが設計した最初の薬剤候補の臨床試験が始まることが、2020年初頭にExscientia社により報告されました。AIによる創薬の重要な瞬間です。 その後、Insilico Medicine社、Evotec社、Schrödinger社など複数の企業が第I相臨床試験を発表しています。 AIを活用したソリューションにより、臨床開発を加速させた候補薬も複数ありますAIベースの創薬に注力する製薬会社のうち約160の創薬プログラムが公開されており、そのうち15製品が臨床開発中とされています。 

構造的に新規性のある分子は、有望な新薬候補になる可能性が著しく高いため、AI設計による分子の新規性を測定する方法を検討することが不可欠になってきます。 CASは、AIによる新薬の革新性をより適切に評価するために、新規分子化合物(NME)の構造的新規性に基づいた創薬イノベーションの新たな指標を発表しました。

そこで、ヒトの臨床試験が始まる最初3つのAI設計の薬剤候補に対し、この初期段階AI創薬用の新しい尺度を用いて構造的新規性を評価してみました。 これら3つの分子(DSP-1181、EXS21546、DSP-0038)はすべて第I相試験中で、Exscientia社のAIプラットフォームを使って発見されたものです。 正確な構造は明らかにされていないものの、最近の特許出願やExscientia社のIPO目論見書に含まれている詳細から、特定の分子にある程度絞り込んで分析することができます。 

AI創薬の最初の3つの薬剤候補は、どれほど画期的なのでしょうか。 分析の結果は以下のとおりです。

AI創薬におけるDSP-1181

DSP-1181が日本で第1相臨床試験を開始すると発表されたのは2020年1月でした。 DSP-1181は、Exscientia社と大日本住友製薬株式会社の共同研究の一環として発見されたセロトニン5-HT1a受容体のアゴニストです。 現在、強迫性障害(OCD)の治療薬として研究されています。

US10800755(DSP-1181ファミリーで特許が付与された2つのうちの1つ)では、3つの薬分子のみが具体的に請求項に記載されています。 構造解析の結果、請求項の分子(例1、8、11)はいずれも、1967年にFDAが承認した第一世代(定型)抗精神病薬として頻用されているハロペリドールと形状が共通していることが判明しました(下表参照)。 抗精神病薬はOCDの治療薬としてFDAから承認されていませんが、ハロペリドールなどの抗精神病薬はOCD患者の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を増強するために用いられ、ある程度の成功を収めています。

ハロペリドールと同じ環状構造を持つ薬剤候補分子
図1:US10800755の請求項に記載されている分子の構造解析

また、この特許には、生物活性データが開示された38の例示分子が含まれており、Exscientia社の目論見書によれば、これはDSP-1181の発見の際に合成・アッセイされた350の分子の11%に相当します。 これら例示された薬分子の形状は、上の表で明らかなようにFDA承認薬ハロペリドールと58%が共通した形状になっており、構造的多様性に欠けています。 さらに、例示された分子の21%が、28種の他のFDA承認薬で共通している形状に集中しています。これには、例えば抗てんかん薬で気分安定薬でもあり、OCD治療に時折使用されているラモトリギンが含まれています。 残り8つの例示薬分子は、他の3つの形状に分散されています。

AI創薬におけるEXS21546

2020年12月、Exscientia社の最も先進的な社内リード薬剤候補のEXS21546が、複数の種類の腫瘍に対する免疫腫瘍治療薬として英国で第I相臨床試験を開始しました。 EXS21546は、Exscientia社とEvotec社の共同研究の一環として発見されたアデノシンA2a受容体拮抗薬です。

その特許であるWO2019233994には、生物活性データが開示された46の例示分子が含まれており、Exscientia社の目論見書によると、これはEXS21546の創薬時に合成・アッセイされた163分子の28%に相当します。 例示された分子は、環の大きさが1~2原子分しか違わないため、3つの構造的に類似した形状を反映しています(下表参照)。 これらの形状は、現在FDAで承認されている薬剤とは共通しないものの、我々の分析により、いくつかの報告済みのA2a拮抗薬と共通していることが判明しました。これには、ヤンセン社が同定し、そしてWO2010045006、WO2010045013、WO2010045017(いずれも2000年代後半に出願した特許)に開示されているものも含まれます。

特許構造物の分子形状解析
図2:WO2019233994の構造の分子形状解析

AI創薬におけるDSP-0038

DSP-0038の米国での第1相臨床試験の開始が2021年5月に発表されました。 DSP-0038は、Exscientia社と大日本住友製薬株式会社の共同研究の一環として開発され、5-HT1a受容体アゴニストと5-HT2a受容体アンタゴニストの二重標的になっています。 現在、アルツハイマー病精神疾患の治療薬として研究されています。 

US10745401(現在DSP-0038特許ファミリーの中で唯一付与されている特許)では、3種類の分子のみが具体的に請求項に記載されています。 請求項の分子(例109、135、171)の形状は、その環の大きさが1〜2原子分しか違わないため、構造的に類似しています(下表参照)。 弊社による臨床試験データの分析では、請求項の分子のうち2つ(例135と171)について、さまざまな精神疾患の治療に使用されているFDA承認済の非定型抗精神病薬と形状が同じであることが判明しました。 残りの形状は、現在FDAで承認されている薬剤とは共通しないものの、吉富薬品株式会社とサントリー株式会社が特定し、US5141930とUS6258805(いずれも1990年代に出願された特許)で開示されているいくつかのセロトニン受容体作動薬/拮抗薬の形状と構造的に類似しています。 そのリンカーの長さは、例109の形状から数原子分しか違いません。

特許請求された分子形状の解析
図3:US10745401の構造の分子形状解析

また、この特許には、194の例示薬分子とその生物活性データが開示されたものが含まれており、Exscientia社の目論見書によれば、これはDSP-0038の発見時に合成・アッセイされた500の分子のほぼ40%に相当します。 これらの例示された分子の形状は、上の表で明らかなように78%がFDA認可済み医薬品と同じ形状を共有し、また93%が請求項の3つの分子の形状に集中しているため、構造的多様性に欠けています。 残り14の例示分子は、他の8つの形状に分散されています。

AI創薬に関するまとめ

これらのAI創薬の候補薬の構造的革新性は、世界的に脚光を浴びるまでには行かないかもしれませんが、だからといって、AIが創薬に与える潜在的な影響が小さくないわけではありません。 AIに完璧な基準を求めるのではなく、AIが設計した分子の新規性は、薬化学者が設計した分子と同じ基準で判断されるべきものです。 今回の場合、医薬品化学者はこれらの分子を見たら、おそらく既存の科学文献に基づき、従来のアプローチで創薬された薬剤候補として同定していたはずです。 
未来科学者ロイ・アマラの有名な言葉に、「我々は技術の効果を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向がある」というのがあります。これは今回においても非常に関連性のある指摘です。 AIによる創薬などの新技術は、当初は過大評価されますが、時間が経てば世界を大きく変える可能性があります。 

臨床的利点が、構造的に新規性のある薬物としばしば関連付けられることが多いことを考えると、化学空間の限界をさらに押し上げることが新薬の探索においていかに重要かは明らかです。製薬業界のイノベーションを測定するのは困難ですが、CASは過去数十年の間に医薬品のイノベーションが大幅に増加したことを明確に示しました。ACSの出版物を参照していただければ、どのように構造的新規性が提案され、そして製薬イノベーションの最新トレンドを分析するために使用されたかを確認することができます。

化学分野の解析 - データと行動のギャップを埋める

Abstract financial charts with upward arrow on a blue background

 

Journal of Organic Chemistry誌の記事「Recent Changes in the Scaffold Diversity of Organic Chemistry As Seen in the CAS Registry(CAS Registryに見られる有機化学の骨格の多様性に関する最近の変化)」では、構造的な多様性における最近の変化を調査するために、CAS Registryから抽出した数多くの有機化合物が分析されました。 化合物の基本的なフレームワークがその多様性を特徴づけます。つまり、分子のフレームワークはその環系すべてとそれらを連結する鎖のフラグメントから構成される骨格から成り立っています。 化合物は、文献で初めて報告された年度を元に分類されているため、フレームワークの出現頻度が10年ごとに比較できます。

結果は、相対的に少数の足場を過度に再使用しているにもかかわらず、構造的視点からイノベーションのペースが加速していることを示しています。

CASは、分子レベルで化学関連データを独自にインデックス化したCASのコンテンツを顧客が活用して、科学分野の探索済みおよび未探索の領域を顧客がスムーズに調査できるように支援します。これで、化学分野で有意義な未開拓な領域と活動が限定的な領域(すなわち、分子のベースとして潜在的に重要だが、活用されてこなかった足場)を特定できます。

有望なRNAiの知的財産保護と商業化

CAS Journal RNAi

このPatent Lawyer Magazineの記事では、CASシニア検索アナリストのAnne Marie Clarkが、RNAi由来の治療法の市場が拡大する際に、特許の落とし穴を避ける方法について説明します。

水素燃料 - 成長市場に関する洞察

thumbnail image for Hydrogen Fuel Insights into a Growing Market white paper

代替再生可能燃料源として新たに登場した水素による変革の可能性は幅広く認められており、電気、暖房、運輸など複数の業界にまたがり高い関心を得ています。

急速な進歩を牽引する新たなイノベーションにより、世界中の水素の市場は2025年末までに2000億ドルを超える規模に大幅に成長すると予測されています。これは商用、学術、政府などの各セクターに大きな機会となります。 この領域における研究者や資金提供機関、投資家そしてビジネスステークホルダーにとって、イノベーションの発展とビジネスチャンスの最大化のためには、この動的で複雑な研究と知的財産の状勢における新たなトレンドを常に把握しておくことは不可欠です。

水素燃料の市場に関する洞察ホワイトペーパーのカバー

 

COVID-19の治療に向けたACE2の標的化

 

ACE2は、ヒト細胞の外側の酵素領域を持つ膜タンパク質で、COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2ウイルスの主要な標的および受容体となる部分です。

多くの治療法や治療薬がウイルス自体に対処しようとしている中、一部の研究者はACE2をうまく使うことでコロナウイルスの拡散を防ぐ方法を模索しています。 ACE2は、SARS-CoV-2による宿主細胞侵入において重要な役割を果たすことから、この機能を阻害する薬の開発がすすめられているのです。

COVID-19および関連するヒトコロナウイルス感染症の潜在的な治療薬と関連生物検定法データ

新型コロナウイルスSARS-CoV-2が引き起こすCOVID-19の蔓延により、世界中で数百万件の確認症例と数万人の死亡例が確認されています。現在進行中のCOVID-19治療薬の研究および開発を支援するため、本報告ではCOVID-19または関連ウイルス感染症の科学的文献および特許に記載されている標的タンパク質の概要ならびに対応する潜在的候補薬および生物検定法と構造-活性関係のデータを提供します。

特に焦点が当たっているのは特定の標的に対して機能する複数セットの小分子と生物製剤です。CLpro、PLpro、RdRp、Sタンパク質とACE2の相互作用、ヘリカーゼ/NTPase、TMPRSS2、フリンなど、ウイルスの生活周期または疾患の病態生理学のその他の側面に関わるものが含まれます。 継続的なドラッグリパーパシング(既存薬転用)の取り組みと、COVID-19を治療する可能性を持った新薬の発見に向け、本報告が貴重な情報をお届けできれば幸いです。

 

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