硝酸アンモニウムの安全性

CAS Science Team

picture of crystalline ammonium nitrate

硝酸アンモニウムは数十億人の食料を供給する力を持つ一方で、土地を荒廃させる可能性もある化学化合物です。 市場で最も効果が高く、経済的で利便性の高い化学肥料であるため、世界中の港湾やその他の場所に現在も大量に保管され続けています。 しかし、最近ベイルートで発生した甚大な大爆発は、硝酸アンモニウムの不適切な保管方法と取り扱い方法に関連した危険性と、その規制を徹底して遵守させる必要性を思い出させてくれました。

製造元、販売店、使用者、救急救命士、規制当局など、硝酸アンモニウムに関わる全員が危険性を十分に理解して、忠実に安全性に関する規則を遵守しない限り、今後も事故は避けられません。

硝酸アンモニウムの安全性ホワイトペーパーのカバー

硝酸アンモニウムの化学特性と危険性や、安全規則などに関する洞察を得るには、この詳細なCAS Insight Reportをダウンロードしてください。硝酸アンモニウムを取り扱う主な関係者の方々にとって役立つリソースになります。

硝酸アンモニウム - 将来のために、その安全性を今のうちに確立する

Rumiana Tenchov , Information Scientist, CAS

Ammonium Nitrate Hero

硝酸アンモニウム(AN)は、いくつもの重要な用途で幅広く使用されている化合物です。 肥料として、何十億人の食料を支えています。 同時に、採掘で使われるさまざまな種類の発破用火薬の主成分でもあり、燃料油と混合し炸薬により爆破されるものでもあります。 農業活動がグローバルに拡大しているところに加え、硝酸アンモニウム燃料油(ANFO)の需要が増加しているため、今後5年間は最低でも年平均成長率(CAGR)4%で硝酸アンモニウムの市場が成長すると予測されています。 しかし、硝酸アンモニウムの特性として爆発の可能性があるため(また、誤用される可能性もあるため)、この化合物の製造者、販売者、使用者は、大惨事を回避するためには、安全警告に注意を払う必要があります。

では、この汎用性に優れた化合物の危険性を最小限に抑えながら、その利点を引き出し続けるには、どうしたらよいのでしょうか。 本稿では、2020年にベイルートで起きた硝酸アンモニウム爆発事故から得た主な教訓と、今後の爆発を防止する方法についてご紹介します。

拡大の一途をたどる硝酸アンモニウム市場

硝酸アンモニウム市場は拡大傾向にあり、最近のレポートでは2026年までに市場規模は240億ドルに達すると推定されています。 こういった市場価値の増大は、人口増加が起爆剤となって起こったもので、それは食料供給と不動産の需要増も引き起こしています。 なお、硝酸アンモニウムはどちらの業界にとっても貴重な資源です。

硝酸アンモニウムという化合物は、その2つの部分、NH4(アンモニウム)とNO3(硝酸塩)の主要成分が窒素であることから、人気のある肥料となっています。 植物はこの化合物の硝酸塩のほうから直接窒素を摂取できるだけでなく、アンモニア部分も土壌の微生物によって徐々に硝酸塩に変換されます。 こういった特性により、即効性ある植物栄養を好む野菜生産者にとって、硝酸アンモニウムは人気のある選択肢になっています。 畜産農家でも、牧草や干し草の施肥には、植物に吸収される前に土壌から揮発してしまうこともある尿素系肥料よりも、硝酸アンモニウムを好んで使用しています。 また、溶解性が高いので、灌漑システムでの使用にも適しています。

硝酸アンモニウムのもうひとつの主な用途は、採掘、採石、土木建設で使用する混合火薬の成分としてです。 ANFOの成分として、北米で使用される火薬の80%を占めています。 残念ながら、ANFOの成分は比較的容易に入手できるため、即席の爆発物に悪用される可能性があります。 このことは、硝酸アンモニウムの潜在的な危険性を抑えるための適切な管理の重要性を物語っています。

ベイルート爆発事故とその余波

2020年8月4日、レバノンの首都ベイルートは大爆発に揺れ動きました。少なくとも218人が死亡し、6,000人以上が負傷しました。 爆発の主な原因は、ベイルート港の倉庫に貯蔵されていた約2,750トンの硝酸アンモニウムです。 この大量の硝酸アンモニウムは、2014年に没収された廃棄船から押収されたものでした。 隣接する倉庫で火災があり、そこで発生した火の粉が貯蔵されていた肥料に引火、その結果爆発が起こり、甚大な物的損害を引き起こし、また推定30万人が住居を失いました。 それから2年が経過した今でも、この爆発はベイルートに影響を及ぼし続けています。2022年7月と8月には、隣接する穀物サイロの倒壊が発生しています

爆発は人的被害だけでなく、経済的影響も67億米ドルを超えるとみられています。 この爆発でレバノンの穀物備蓄の90%が失われ、深刻な経済問題に直面しているレバノンの食糧安全保障をさらに不安定なものにています。 また、データは不足しているものの、環境も影響を受けているはずと考えられます。 硝酸アンモニウムが爆発した際、窒素酸化物やアンモニア、そして一酸化炭素などの有害なガスが環境中に放出されており、化学汚染を引き起こし、地域住民にさらなる被害を及ぼしました。 この環境汚染により生態系も被害を受けました。分解生成物が海に流れ込めば、両生類や水生生物が硝酸塩中毒の被害をまともに受けることになります。

専門家たちはベイルートの大爆発を分析し、類似している他の硝酸アンモニウムの災害と比較しました。 他の数例の爆発事故と同じく、爆発の根本的な原因は制御不能な火災と判断されました。 大量の硝酸アンモニウムを一カ所に備蓄していたことが爆発の衝撃を増幅させ、また貯蔵場所が都市部であったことが爆風による負傷者増加につながりました。 これらの分析をもとに、いくつかの提言がなされました。これには、レバノンの国家レベルで化学物質の安全性管理のための化学物質規制庁を立ち上げること、そして将来の事故に対応するための緊急対応計画を改善することなどが含まれています。

硝酸アンモニウムの持つ爆発性

硝酸アンモニウムの爆発事故の多くは輸送時または貯蔵時に発生します(図1)。しかし、爆発のリスクファクターを十分に理解するには、硝酸アンモニウムの化学的性質や製造工程を理解することが重要になります。

CAS 事故の件数
図1 20世紀以降の硝酸アンモニウム事故の分布 

硝酸アンモニウムは、水中でアンモニアと硝酸を反応させ、その後水分を徐々に蒸発させることで固体を製造します。

NH3 + HNO3 → NH4NO3

アンモニアは通常、大気中の窒素から作られ、硝酸はアンモニアの燃焼により生成されます。 この2つの出発原料は、一般的には近接した状態で保管されることはありません。 この反応では大量の熱が発生するため、製造は水溶液中で行われます。 そこで、その反応後に行われる蒸発の工程が、幾度かの爆発事故の原因となっているのです。 不純物の混入があると、硝酸アンモニウムの安定性が低下するため、これも製造プロセスに関連した爆発のその他の原因になります。 また、温度管理が不十分だと、硝酸アンモニウムが水分を吸収したり、結晶体が変化して凝集し、使用に適さなくなる場合もあります。

硝酸アンモニウムの反応については数十年も研究されてきているにもかかわらず、分解と爆発の正確なメカニズムは完全には解明されておりません。 この謎は、部分的にはこの反応の科学的な複雑さもあります。ただ、それ以外にも周囲の変動条件や潜在的な汚染物質の多様性といった事などにも起因しています。 爆発の主反応としては、以下が想定されています。

2NH4NO3 → 2N2 + O2 + 4H2O

硝酸アンモニウムが高い爆発性を有する理由のひとつとして、同じ分子の中に燃料と強力な酸素生成剤、つまりアンモニウムイオンと硝酸塩が含まれていることが挙げられます。 分解が起こったとき、熱が発生して爆発を引き起こします。ところが、そのときにそこに酸素の供給源がすでに存在しているため、燃焼が急速に進むわけです。 その結果発生するのが、亜酸化窒素、酸素、水、そして大量の熱と運動エネルギーになります。 これらの生成物は、最初の硝酸アンモニウムの体積の1,000倍まで膨張します。そうやって、周辺に壊滅的な爆風被害をもたらすのです。

事故による爆発や、一般的な誤用の危険性を最小限に抑えるため、いくつかの工程や添加剤、そして硝酸アンモニウムの代替品などもテストされてきています(表1)。 それでも、完璧な解決策は存在していません。安全で経済的に成立する代替手段を開発するためには、さらなる研究が必要です。 CASが編纂した硝酸アンモニウムの爆発事故の教訓をまとめたInsight Reportでも強調されている通り、「誤って爆発しない肥料を作るだけでは不十分で、簡単に爆発させることができない肥料を作ることが重要」なのです。

表1. 窒素肥料の代替品一覧

肥料

コメント

無水アンモニア

加圧ガス、閾値10,000 lbsでリスク管理計画(RMP)規制対象物質、危険物輸送の規制対象。

アンモニア水

揮発性、閾値20,000 lbsでリスク管理計画(RMP)規制対象物質

尿素

高窒素含有、揮発性

硫酸アンモニウム

不揮発性、低窒素含有

リン酸二アンモニウム

リン酸を含む

リン酸二水素アンモニウム

リン酸を含む

硝酸カリウム

カリウムを含む、安定

硝酸ナトリウム

安定

カルシウムシアナミド

カルシウムを含む

硝酸カルシウム

カルシウムを含む

代替の窒素肥料も検討されています(表1)。ところが、窒素含有量が最も多い代替品は常温では気体であり、そしてその毒性がその利用の妨げになっています。 窒素を多く含む肥料と他の多量養素を一緒に混ぜることで、爆発のリスクを抑えながら効果的な肥料を作ることができます。

硝酸アンモニウムの取り扱いには注意が必要

すでにいくつかの国では、硝酸アンモニウムの安全な取り扱いと貯蔵に関する多数の厳格な規制と要件が存在しています。 米国では、2001年に労働安全衛生局(OSHA)が主要な規制を発表しており、さらに2015年には、OSHAが環境保護庁(EPA)およびアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)と共同で発表した勧告文書にて、追加ガイダンスが掲載されています。 この勧告は、硝酸アンモニウムのリスク管理と安全性を向上させ、環境保護を支援するための、政府の継続的な取り組みの一環として発表されたものです。

硝酸アンモニウムの安全性に関するCAS Insight Reportでは、その安全な貯蔵にはいくつかの変数の慎重な検討が必要であると強調されています(図2)。 このOSHAの規制では、貯蔵場所には十分な換気が必要とされています。そしてそれが、有毒ガスや高温ガスの蓄積や凝集を防ぐための鍵であるとしています。 その他、安全に関する重要要素として法律で規定されているものとして、保管場所には不燃物を使用すること、54°C(130°F)より低い温度を維持すること、一か所に貯蔵する硝酸アンモニウムの量を制限すること、そして適切な消火手段を確保すること、などがあります。

固形の硝酸アンモニウムといった危険物の管理には法律やガイドラインは不可欠とは言え、それらを遵守してこそ安全性を向上させることができます。 硝酸アンモニウムに関する認識、つまりその危険性に対する認識や、既存のガイドラインを遵守することの重要性という認識を高めることによって、将来の大惨事を防止するか、または少なくとも大幅に抑制することにつながるでしょう。

CAS 安全貯蔵
図2 硝酸アンモニウムの安全貯蔵には、いくつかの変数を慎重に検討する必要があります。

硝酸アンモニウムは、農業やその他の世界中の産業で利用されている、有用性が高く経済的にも重要な物質です。 しかし、その製造や貯蔵に潜む危険性は、この100年で何度も発生した壊滅的な爆発事故によって浮き彫りになっています。 この危険な状況を改善させるには、硝酸アンモニウムの危険性を周知させ、適切な代替品を探す間も徹底的な安全対策を講ずることが最重要課題となります。

詳細については、CAS Insight Report、『硝酸アンモニウムの安全性』をダウンロードしてください。

有望なCOVID-19治療薬の特定に向けたQSAR機械学習モデルとその応用

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膨大な努力と投資にもかかわらず、世界保健機構がCOVID-19のパンデミック宣言をしてから7か月間たった現在も、この疾患に苦しむ患者に対する効果的な治療薬は見いだせていないのが現状です。 ウイルスの影響を軽減できる効果的な抗ウイルス治療の特定を支援するため、CASの科学者と技術者のグループは、機械学習の予測モデルでCOVID-19の治療薬候補を特定しようと挑戦しています。 定量的構造活性相関(QSAR)手法は、優先されるウイルスタンパク質ターゲットの3CLproまたはRdRp用に40個以上のモデルの作成およびテストに使用されました。 FDA承認薬を含む150,000以上の化学物質のセットをスクリーニングするために、最適なパフォーマンス分類モデルが適用されました。 この作業により現在臨床的効果を示し始めている薬がいくつか特定されました。LopinavirやTelmisartan、その他多くの候補物質がこれに含まれます。

人力によるデータの収集と機械学習の予測モデルを組み合わせ、COVID-19の小分子候補薬を特定する取り組みは、創薬における人力と機会学習のシナジー効果に脚光を当てることになると共に、継続的なCOVID-19などの抗ウイルス薬研究努力に貢献することになります。

COVID-19ワクチン開発のグローバルな取り組みに関するレビュー

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昨年度は、COVID-19パンデミックに対処するために、前例のない数のワクチン候補が開発されました。 2021年2月末の時点で、数種類のワクチンが条件付きで承認され、その他にも数種類のワクチンがまもなく承認される予定です。 現在まだ臨床研究中の多数のワクチン候補が、今後数年間に市場に登場するものと思われます。

このレポートでは、これらのワクチンと関連研究を、従来の取り組みと将来的な取り組み両方から検討し、それぞれの技術の長所と短所を明らかにし、その応用におけるアジュバントとデリバリーシステムの利用についてまとめた上で、今後の方向性についての見通しを立てます。

脆弱な結合力 - 可燃性化学物質に潜む力

Robert Bird , Information Scientist, CAS

CAS Blog cover image,  Weak Bonds – the Hidden Power Within Combustible Chemicals

史上最大かつ最も破壊的な産業事故のひとつであるベイルートの悲劇から1年が経過しました。その爆発はあまりに巨大なため、200km離れたキプロスでも聞こえたほどでした。この悲劇を今、追悼します。 爆心地は港の倉庫で、爆発したのは2,750トンの硝酸アンモニウムでした。 

硝酸アンモニウムは、最も広く使われている肥料のひとつです。また、鉱山用の爆薬など多くの工業化合物の重要な成分であり、抗生物質や酵母の生産に必要な栄養素としても使用されています。 工業工程で使用される他の多くの化学物質と同様、危険性をはらんでいます。しかし、安全な保管と確固とした取り扱い手順によって、その危険性は軽減させることができます。 

ベイルートでの調査はまだ終わっていませんが、現時点では、港の倉庫から出火し、硝酸アンモニウムが保管されていた場所に延焼したと考えられています。花火倉庫の近くに危険な保管がされていたこと、そして隔離や防火対策がされていなかったということなどが、爆発を招きました。 この事件では、わずか数秒間に200人以上が死亡、5,000人以上が負傷し、約30万人の住民が家を失うことになりました。 悲しいことに、この事故は特別なことではありませんでした。硝酸アンモニウムなどの化学物質による爆発や火災は、あまりにも頻繁に起こっています。 結局のところ、エネルギーを急速に放出できる物質には、爆発や火災のリスクが潜んでいるのです。 では、なぜ特定の化学物質にはそういった性質があるのでしょうか。

弱い化学結合と安定生成物=爆発的な組み合わせ

ある物質の化学結合が弱く、また特に安定生成物が生成される場合は、火災や爆発の危険性があります。 ガソリンなどの燃料が燃えるのは、燃焼によって化学結合の強い安定した物質が生成されるからです。ガソリンの場合、それは二酸化炭素と水です。 ガソリンが燃焼するには、熱か、火花や炎などの着火源が必要です。これは、燃料である反応物の結合は簡単には切断できないためです。

例えば、図1はガソリンの燃焼などの反応の概念モデルです。 紫色の線は、反応物から生成物への反応の際に自由エネルギーがどのように変化するかを示しています。 ガソリンが燃焼すると、強い結合を持つ安定した物質(水と二酸化炭素)が生成され、その過程で大きなエネルギーが放出されます。 図では、これは左の反応開始点での高さと右の反応終了点の高さの差で表されています。 反応物と生成物の自由エネルギーの差が大きくなると、反応が起こったときに放出されるエネルギーも大きくなります。

ただし、反応物から生成物になるには、その分子には反応を開始するための十分なエネルギーが必要です。 多くの場合、反応は結合が切断されて開始しますが、強い結合を切断するには相当な量のエネルギーが必要になります。 つまり安定した分子による反応が始まるには、その反応に大きなエネルギーを与える必要があります。 このエネルギーは活性化障壁と呼ばれ、これは図では反応経路の真ん中の丘の高さで示されています。

自由エネルギーと活性化エネルギー
図1:活性化エネルギーと反応エネルギーの比較

活性化障壁をいったん越えると、反応は可能になります。 反応物と生成物の間の自由エネルギーの差が大きいため、ひとつの分子で反応が起きれば、そこから他の分子が活性化障壁を越えるのに十分なエネルギーが得られます。 そうなると反応が加速され、反応物が消費されるまで止めるのが困難になります。 そこでガソリンも、一度火がつくと消火しにくくなります。 また、生成物は気体(二酸化炭素と水蒸気)であるため、反応物よりもはるかに大きな空間を占有します。 体積が膨張すると周囲にもエネルギーが伝わります。密閉された空間で反応が起きれば、爆発が発生する場合があるわけです。 ガソリンが燃焼を開始するにはより多くのエネルギーが必要となるため、そのエネルギーを供給する行為を回避するのは比較的容易であり、従って火災は防ぎやすくなります。 


爆発性化学物質の例については、こちらをご覧ください。また、化学物質の安全性や物質に関するその他の資料については、化学物質安全性ライブラリCAS Common Chemistryを参照してください。 


その他の物質では、さらに高い危険性を有するものがありますが、 その多くは化学結合が弱いものになっています。 図1に、弱い結合の分子の燃焼などの反応モデルも示しています(緑線)。 ガソリンと同様、左側の反応物と右側の生成物の自由エネルギーの差(高さの差で示される)が大きくなっています。生成物には強い結合が存在しているため、反応が起きると膨大なエネルギーが放出されます。 ただし、こっちのほうの反応の障壁の高さは、ガソリン燃焼の障壁よりかなり低くなっています。 

多くの場合、反応は結合が切断されて開始しますが、弱い結合が存在すると反応は起こりやすくなります。 いったん結合が切断されると、反応が完了するまで進みます。 この場合のように、生成物が反応物より有するエネルギーが大幅に低い場合、ある分子ひとつで起こった反応で放出されたエネルギーで、他の分子を反応させることができます。この場合、反応の障壁が低いため、図1(紫)の物質1分子の反応よりも、図1(緑)の物質1分子の反応のほうが、より多くの分子を反応を誘発できるのです。 つまり、弱い結合があると、一度始まった反応は急速に加速されやすいことを意味します。 その生成物が気体であれば、周囲にも作用を及ぼします。反応速度が十分に速ければ、爆発やデトネーションが起こりやすくなります。 結合が弱い物質は反応の障壁が低いということは、反応の開始に必要なエネルギーが少なくて済むということであり、結果として取り扱いの方法がより限られることになります。 場合によっては、取り扱い時の衝撃や摩擦、火花で反応が起こることもあるため、火災や爆発を防ぐためには、より慎重な取り扱いが必要になります。

アジド(RN3はこの点をよく表しています。 これは3つの窒素原子が不均一な強度で結合している物質です。 窒素原子は強い結合を形成できます。窒素分子ガス(N2)の窒素原子間の三重結合は、化学結合としては最も強いほうであることで知られていますが、窒素原子は単結合や二重結合を形成することも可能であり、これらはかなり弱い結合になっています。 アジドにおける窒素-窒素結合のひとつは弱く、その切断にはあまりエネルギーを要しないため、急速に分解してN₂生成が促進されます。 N2の窒素-窒素結合は、反応物であるアジドの窒素-窒素結合よりもはるかに安定しているため、この分解によって大量のエネルギーが放出されます。 

無機アジドと有機アジドでは感度が異なります。 無機アジ化ナトリウムは日常的に安全に扱えるため、自動車のエアバッグの急速ガス発生剤として配備されています。一方、アジ化鉛などの高揮発性の重金属アジドは火薬の起爆剤として使用されています。 有機アジドは、医薬品やポリマーなど、一般的にはより複雑な化学物質の合成に使われます。 有機アジドでも分子量が低いもの、または窒素(N)と炭素(C)原子比の高い有機アジドは爆発性があり、無機アジドとジクロロメタンとの反応による低分子アジドの生成でラボでの爆発数件報告されています。 また、変性タンパク質の調製に用いられるアジド修飾アミノ酸にも爆発性があることが判明しています。 

過酸化物(ROOR)も爆発性のある分子です。 過酸化物には弱い酸素-酸素結合があり、この結合が切れると、化学反応に貢献するラジカル中間体(フリーラジカル)が生成されます。 ラジカル中間体は特に重合反応を起こすのに有用で、また燃焼の中間体としてもよく検出されます。少量のラジカルでも触媒として作用し、場合によってはそれ自体の生成に触媒作用を及ぼすこともあります。 過酸化物も分解して酸素分子(O₂)を生成します。酸素-酸素の単結合は弱い一方、O2の酸素-酸素の二重結合は強力なので、この分解でエネルギーが放出されます

酸素-酸素の結合が弱いということは、過酸化物が容易に分解されることを意味し、フリーラジカルとO₂という、揮発性と爆発性(濃縮された場合は特に)の組み合わせが放出されます。 過酸化物を扱う化学施設では、いくつか重大な火災が報告されています。米国テキサス州では、ハリケーン「ハービー」と未曾有の洪水により安全装置が作動しなくなったことが原因で生じた火災もあります。 過酸化物は、エーテルが酸素にさらされることによっても自然発生します。 この過酸化物は結晶化し、物理的な衝撃や摩擦、特定の金属との反応によって爆発することもあります。 エーテルには通常、過酸化物の生成を防ぐためにBHT(ブチルヒドロキシトルエン、防腐剤として使用)など少量の阻害剤が配合されています。 阻害剤は酸素によって消費されるため、酸素の存在下で長期間保管すると、エーテルは過酸化物を生成しやすくなります。

燃焼は安定を求める

その他の物質では、その物質自体の結合は容易に壊れないものの、ある条件下では簡単に反応を起こし、より安定する生成物を形成するようなものがあります。 新しい結合が形成されるときに熱としてエネルギーが放出され、火災や爆発が生じる恐れがあります。 例えば、アルキル金属は、さまざまな化学物質や材料の合成に触媒として用いられますが、自然発火性の物質なため、往々にして空気と接触すると簡単に燃焼します。 

特にトリメチルアルミニウムは空気または水と反応し、その生成物はアルミニウムと酸素の結合が非常に安定しているため、火災爆発が発生します。

アクリレートは工業規模の重合に使用されます。個々のアクリレートモノマーはポリマー鎖に組み込まれる際に、その二重結合にさらに単結合で置き換えます。 この新しい結合は、二重結合の累積強度よりも強いので、重合反応によってエネルギーが放出されます。 アクリレートなどアルケンの重合は、過酸化物などのラジカル開始剤を用いて重合反応を開始することが多く、つまり他の環境下では爆発に至るような反応性を利用していることになります。 大規模な重合槽で、表面積と体積の比率が低すぎて生じる熱を放散できない場合、ならびに制御されていない重合の抑制剤が消費してしまうか、不活性化されたかまたは除去された場合は、アクリレートは爆発的に重合することがあります。 

同様に、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒は、酸、塩基、求電子剤などさまざまな物質と反応して分解温度を下げることができます。一見安全に見える低温での反応でも、爆発に至る恐れがあるのです。 

現代社会を実現してきた化学を役立てる

化学の中心になっているのは、エネルギーの変化です。何世紀もの間、人類はこのエネルギーを利用して世界を旅し、産業を発展させ、食卓に上る食物や身に付ける衣服、都市の構造物などを生産してきました。 私たちは、爆発性や揮発性のある化学物質をエネルギーとして欲していますが、その力は予期せぬ破滅的な結果をもたらすことがあります。 このエネルギーを建設的な方向に向ける方法を理解し、化学物質が予想外の有害な反応をする可能性のある状況をよりよく把握することで、爆発事故を未然に予測し、それを防止することができます。

硝酸アンモニウム、その危険性、および安全規則に関する詳細については、CAS Insights Report全文をダウンロードしてください。また、主要な専門家が集まって製剤の選択肢と技術革新の状況について議論するウェビナーもご覧ください。 

脂質ナノ粒子の研究環境とその進歩

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脂質ナノ粒子(LNP)は、製薬業界においてさまざまな治療薬を送達するための有望な手段として浮上しています。 初期のLNPをベースにしたリポソーム医薬品は、すでに承認され医療現場に適用されています。 LNPは、治療薬をカプセル化して体内の特定の場所に送達し、指定された時間に内容物を放出することができるため、薬物の使用を発展させる有望なプラットフォームです。

ACS Nano誌に掲載されたこの査読付き論文では、CAS コンテンツコレクションにおけるLNP関連論文の状況を詳細に検証します。 また、抗腫瘍治療、核医学治療、そしてワクチン送達システム等の分野におけるLNP発展の機会や、LNP利用の潜在的な課題についても議論します。 こちらでジャーナル全文をお読みください。

化学における人工知能 - 現在のトレンドと今後の方向性

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近年、化学分野でのAIの応用が急速に進んでいます。 このようなAIの利用についてはたびたびマスコミに登場するものの、化学の分野でそれが実際どのように使われそして発展しているのかに関する詳細な分析は、あまり多くありません。

Journal of Chemical Information and Modelingに掲載されたこの査読付き論文は、CAS コンテンツコレクションにおけるAI関連の化学文献の増加と分布の研究です。 2015年以降のこの研究の量は、飛躍的に増加してきています。 本論文では、学際的な研究トレンドや特定の化学研究テーマにおけるAIの関連性、そして今後機械学習が果たす役割に関する理解についても考察しています。 こちらでジャーナル全文をお読みください。

ナレッジグラフに基づいたCOVID-19のためのドラッグリパーパシングの取り組み

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COVID-19のパンデミックにより、世界中の研究者が有効な治療薬や治療法を見つけるための研究に取り組んでいます。 多くの場合は、時間を節約するために、他の病気に使われている既存薬から新しい薬効を見出す取り組みに注力してきました。 その中で、COVID-19の治療用にリパーパシングできる既存薬を特定するために、CAS生物医学ナレッジグラフが開発されました。

Journal of Chemical Information and Modelingに掲載されたこの査読付き論文では、このグラフとその結果について詳しく検証しています。 分子機能別、臨床試験別に、さまざまな分子がどのように分析されたかを紹介しています。 このグラフは、COVID-19だけでなく、その他多くの疾患に関するイノベーションと研究を加速する機会をもたらします。 こちらからジャーナル全文をご覧いただけます。

生体直交化学とその応用

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生体直交化学とは、非天然の官能基の化学を使って生体の生物学を解析する一連の方法です。 従来、実験室で行われていた有機合成を、生細胞内で実行できるようになります。 この方法は、実験室などで大量の物質を準備するために使用するのではなく、生体分子を共有結合的にコード化することを目的としています。

Bioconjugate Chemistry誌に掲載されたこの査読付き論文は、生体直交化学で用いられる最も一般的な反応、その長所と短所、および他の出版物での出現頻度を調査したものです。 また、CAS コンテンツコレクションにおける他の生体直交化学の研究を分析し、ある物質が生体直交化学でどう研究されているのかを調べています。 こちらでジャーナル全文をお読みください。

バイオポリマーは製造業の最新のグリーン・ヒーローになるのか

Xiang Yu , Information Scientist/CAS

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2022年に向け、世界的な関心事のひとつに気候変動があります。 気候変動の主な原因は、化石燃料の燃焼であることは広く受け入れられています。つまり、石炭や石油などの化石燃料を燃やすと、大量の二酸化炭素が大気中に放出され、大気中の熱を閉じ込めて地球温暖化を引き起こすというものです。

スーパーマーケットのレジ袋や車のバンパーそして衣服にいたるまで、あらゆる製品に使われているプラスチックは、従来石油を原料とする合成ポリマーでできています。 これらのポリマーの構成要素は、原油精製から直接得るか、または精製製品から合成されています。 現在のプラスチック製品の製造工程では、世界の石油供給量の8〜10%を消費していると言われており、この数字は2040年までに倍増するものと見られています。

石油化学製品や従来のプラスチックの生産は、依然として石油に完全に依存しており、この再生不可能な資源は地球上から急速に枯渇しつつあります。 従ってプラスチックは多重問題であると言えます。つまり、従来のプラスチックの生産は資源の枯渇により、いずれは停止しなければなりません。同時に、この製造方法は生態系を破壊します。加えて、多くのプラスチック製品は再利用できないために膨大な量の廃棄物が発生し、適切に廃棄・リサイクルされないことでさらに大きな損害を与えるのです。

そこで世間一般の人は、使い捨てプラスチック製品の使用を減らし、包装のゴミを減らし、そして責任を持ってリサイクルすることで、「環境フットプリント」を減らし、環境保護に貢献できます。 製造業も同様、プラスチックを開発する際に石油に代わる資源を選択することで「環境フットプリント」を改善させることができます。つまり合成ポリマーではなくバイオポリマーを選択するのです。

「バイオポリマー」は、(その由来は問わず)生分解性ポリマーや生体適合性ポリマーを指すことがありますが、本ブログでは、バイオ由来ポリマー、すなわちバイオマスから作られたポリマーのみを指す言葉として使用します。再生可能な資源を原料としているので、大気中のCO2を固定し、そして温室効果ガスの排出を削減します。 また、多くのバイオポリマーは生分解性があるため、使用後の製品の廃棄にも柔軟性をもたらし、そしてリサイクルも可能にします。

バイオポリマーの種類

バイオポリマーの種類は、原料や製造方法によって大きく3種類に分類されます。

  • クラスA - デンプン、セルロース、タンパク質、アミノ酸、およびその誘導体などバイオマスから直接得られる天然高分子。
  • クラスB - 微生物や植物を使って生体内で合成されるポリマー、またはポリヒドロキシアルカノエート(PHA)やポリ乳酸(PLA)など、主に生合成されたモノマーから直接生成されるポリマー。
  • クラスC - ポリエチレンポリエチレンテレフタレート(PET)など、バイオ由来の代替モノマーから調製される従来型の油性ポリマー。

各クラスのバイオポリマーは、それが包装材料や農業であれ、手術用生体材料であれ、それぞれがさまざまな商用アプリケーションに適しています。

  • クラスAおよびクラスBのポリマーはすべて生分解性があり、ほぼすべてがバイオベースです。しかし油性のプラスチックと比べて特性が劣るため、多くの場合補強用の充填材や衝撃改良剤と組み合わせて使用されます。
  • クラスCのポリマーは、構造的には油性プラスチックに似ているものの、生分解性がほとんどないため、油性同様の廃棄やリサイクルの問題を抱えています。

バイオポリマーの利用拡大に立ちふさがる課題は、そのコストです。 発酵収率効率を改善させるための戦略、または食品工場や有機廃棄物処理施設にバイオポリマーの生産を統合させるなどの取り組みによって高い製造コストを下げる努力は行われてはいるものの、コストは依然として大きな障害になっています。

バイオポリマーの現在の用途

商用バイオプラスチックは、主に包装用として使われてきました(表1)。 デンプンとPLAは、おそらく低コストであることから、最も多く製造されているバイオプラスチックです。 一方、PHAは製造コストが高いため、生産量はかなり低くなっています。

表1. 主要商用バイオポリマーの生産と用途

バイオポリマー 2020年 グローバル生産量(トン) 主要製造者 用途 生分解性
デンプンおよびデンプン混合物 435K Futerro、Novamont、Biome 柔軟梱包材、消耗品、農業製品
ポリ乳酸(PLA) 435K NatureWorks、Evonik、Total Corbion PLA 柔軟梱包材、硬質梱包材、消耗品
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA) 40K Yield10 Bioscience、Tianjin GreenBio Materials、 Bio-on 柔軟梱包材、硬質梱包材
ポリエチレン(PE) 244K Neste、LyondellBasell 柔軟梱包材、硬質梱包材
ポリエチレンテレフタレート(PET) 181K 東レ、コカコーラ、M&Gケミカル 硬質梱包材
ポリブチレン・アジペート・テレフタレート(PET) 314K Algix、BASF 柔軟梱包材、硬質梱包材、農業製品
ポリブチレンサクシネート(PBS) 95K Roquette、三菱ケミカル、 Succinity 柔軟梱包材、農業製品

コカ・コーラ社の「クールな」PlantBottle™

バイオポリマーにおける持続可能なイノベーション自体は、何十年にもわたって水面下で進展してきました。しかし、こういった進歩も、トップ企業が新製品を発表するまではニュースになることも、一般向けに公になることもあまりありません。

2015年の夏、コカ・コーラ社は、再生可能な資源だけで作られた世界初のプラスチックボトルPlantBottle™の容器を発表しました。 このボトルは、見た目や機能、そしてリサイクルも従来のプラスチック製のボトルと同じですが、石油を原料としないことで地球への負荷が大幅に削減されています。 こういった発表は、バイオポリマーの継続的開発や世界の主流製品での採用を大いに後押しします。


バイオポリマーに関する誤解と事実

これらの製品を広範囲に普及させるためには、一般の人がバイオポリマーについて持っているイメージも重要になってきます。従来のプラスチック製品に代わる持続可能な代替品としてのバイオポリマーのメリットは、一般的にも認識されているものの、同時に批判の対象にもなってきました。 その批判の中には、明らかに誤解や混乱から生まれたものもあれば、中にはまったく突拍子もないものもあります。表2に、最も頻繁に論じられている内容と、それに対する私どもの意見をまとめてみました。

表2. バイオポリマーに関する誤解と事実。

PBAT=ポリブチレンアジペートテレフタレート、PBS=ポリブチレンサクシネート、PLA=ポリ乳酸。

誤解 事実
バイオポリマーは生分解性ポリマーである 必ずしもそうとはいえない。 ポリマーが生分解性であるかどうかは、その製造方法というよりも、最終的にはその構造に依存する。 クラスAとクラスBのほとんどのバイオポリマーがたまたま生分解性であるのに対し、クラスCのポリマー(PBSやPBATなど)では生分解性はわずかしかない。
バイオポリマーは、実際は主張されているように生分解性ではないので、プラスチック廃棄物の危機を解決することはできない。 バイオポリマーやバイオプラスチックは、プラスチック廃棄物の蓄積を直接解決させるためのものではない。廃棄物に対する主な手段は、生分解性プラスチックとプラスチックのリサイクルである。 バイオプラスチックの最大のメリットは、再生不可能な石油やガスではなく、再生可能なバイオマスを原料に用いることにある。 
 
バイオプラスチックは、たとえ生分解性でも、通常の条件下では十分に速く分解されないので、堆肥化の施設が必要になる。 生分解性は、一部のバイオポリマーの副次的な利点に過ぎない。 バイオポリマーは、従来のプラスチックと同様、劣化のスピードに大きな差がある。 例えば、PHAは環境条件下で非常に速く分解される一方、PLAやPBATは工業用堆肥の熱を必要とする。 さらに、分解が速すぎるとプラスチック製品としての有用性が損なわれてしまう。
バイオプラスチックは、梱包用途にのみ適しており、従来のプラスチック製品のすべてに取って代わることはない。 バイオポリマーの応用は、特にクラスCのバイオベースのポリマーの開発により、著しく多様化している。 バイオベースポリマーの梱包製品用の生産比率は2020年で47%であり、従来型のプラスチックの40%に比べてわずかに高いだけである。
バイオポリマーの生産には多くの農地を必要とするため、人間や動物の食料生産に影響を及ぼす。 2019年において、バイオポリマーの原料生産に使用された農地は、世界の総農地の0.016%であった。 これは、仮に現在生産されるすべてのプラスチック製品がバイオベースであったとしても、また生産量に比例して使用する土地面積が増加したとしても、使用する農地の割合は2%を超えないということを意味している。

バイオポリマーの研究環境

バイオポリマー研究は近年トレンドとなっており、2019年の新興技術トップ10にも選ばれています。 これまでの研究とイノベーションは、CAS コンテンツのコレクション™(図1)に見られるように、過去20年にわたり継続的に行われてきました。この間、石油価格の変動や持続可能性の強化、そして気候変動への対処といった、全般の動きにもその都度対応してきました。 学術論文と特許の量で見ると、当初は緩やかに増加し始め、そして2009年頃から同じようなペースで加速してきています。 2014年頃からは、2020年までのジャーナル論文数の大幅な増加とは対照的に、特許論文数の伸びは相当鈍化しました。

バイオポリマーは、化石由来プラスチックの再生可能代替品として主に開発されているため、化石由来プラスチックの価格が大幅に上昇すれば、バイオポリマーの競争力が高まり、また研究者や発明家の熱意と信頼も高まるものと考えられます。 プラスチックの価格は原油価格と密接に連動していますが、原油価格は2000年代半ばから大きく上昇し、2008年に前例のないほどの急激なピークを迎えました。そこで2008年頃の、特に特許公開件数曲線に見られる変曲点などは、このことによって説明できるかもしれません。 2014年以降に原油価格が急落し、バイオポリマーのコストが相対的に再び上昇したため、たぶん発明者の意欲が減退し、同年は特許件数が横ばいになっています。

CASコンテンツのコレクションのバイオプラスチック全般に関する出版物の数
図1. 2001年から2020年までのバイオポリマー全般に関する出版物の数。


バイオポリマーのさまざまなクラスの利点、限界そして人気や、これら従来のプラスチック代替品に対する研究開発の関心が過去20年間でどのように変化してきたかについて詳しく知るには、こちらのCAS Insights Reportをお読みください

 

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